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それから一年。蒼佑は宣言通りあのコンクールで優勝を果たし、高校を卒業したわたしはパリへ旅立った。家族三人で割と穏やかな生活を送っていると思う。そんな中、突然電話がかかってきた。
『千佳ちゃん、僕は今どこにいると思う?』
大学の講義を終えたわたしは、パリの街を散策していた。電話の相手は蒼佑だ。開口一番にそう聞かれ、わたしは眉をひそめた。
「いや知らないよ。家じゃないの?」
蒼佑は高校卒業後、東京の音楽大学に進学したはずだった。日本とフランスの時差は七時間で、今日本は夜の十時だ。蒼佑は夜十一時には寝る人なので、普通に考えて家にいると思ったのだが。
『ぶぶーっ。大ハズレ。後ろ、見てごらん』
後ろ? 言われるがまま振り向くと。
「そう、すけ……?」
そこには高校卒業時と変わらない、寝癖の付いたくせ毛に、穏やかな空気を纏った幼馴染がいた。
「千佳ちゃん、久しぶり」
「な、なんで……」
ここはパリで、蒼佑のいる日本ではない。一瞬夢でも見ているのかと思ったが、わたしはちゃんと朝目覚めて学校に行ったので、これは現実であることは明白だった。
「去年のコンクール、僕が絶対優勝を目指して頑張ったのは、優勝したら先生がパリの音楽大学に推薦してくれるって言ったからなんだ」
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