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「は」
わたしは突然の種明かしに口を半開きにして唖然とした。そんなの知らなかったし、そもそもそんなにパリに来たかったなんて一言も言っていなかった。突然の幼馴染の出現に驚きと混乱を隠せないわたしをよそに、蒼佑は誇らしげに胸を反らした。
「無事、一位入賞した僕は、パリに音楽留学しているわけです」
さも当然というような口調に、わたしの頭はますますこんがらがる。とりあえず自分を落ち着かせようと、深呼吸した。スー、ハー。
「そんなにパリの音大に行きたかったの?」
音楽の都といえばウィーンだが、パリだって引けを取らない。音楽の為に留学までするなんて、将来プロのピアニストにでもなるつもりなのだろうか。しかし蒼佑は首を傾げた。
「パリの音大、というか、千佳ちゃんの近くにいたかっただけだけど」
「はぁ?」
蒼佑にパリで会ってから一番素っ頓狂な声が出た。全くもって意味が分からない。蒼佑が手の届かない場所へ行ってしまうのが嫌で、わたしから離れたのに追いかけて来るなんて聞いてない。
「だって、千佳ちゃんが近くにいないと僕、生きていけないよ」
「わたしはあんたの母親じゃないんだけど」
「千佳ちゃん、わざと僕から離れたでしょう」
急に核心をつくものだから、返答に詰まった。ピアニストは譜面から作曲者の意図を読み取るらしいが、幼馴染の心理まで読み取ることができるのか。蒼佑はニコニコして続けた。
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