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4.後悔と涙
家出中に保険証のことで父に電話をした。
久しぶりに聞く父の声は相変わらず優しかった。
その時、祖母が亡くなったことを知った。
祖母は私が中学校に入ってしばらくすると、継母との確執で出ていき
一人で中華料理屋さんの二階のアパートに住んでいた。
そのお店が火事で燃えて、二階にいた祖母は逃げ遅れ
二酸化炭素中毒で亡くなってしまった。
父と継母は警察に呼び出され、事情聴取を受けたらしい。
父が祖母の遺品の整理に部屋にいくと金目のものはすべて
妹がもっていき、下着や写真などはそのままになっていた。
父がどんな気持ちでそれを片付けたのだろうとおもうと
心が痛かった。
父の妹は祖母の指を切断して指輪も持っていったらしい。
あの世で祖母は指のないまま過ごしているのだろうか。
なんで自分の親にそんなことができるんだろう。
そこまでして指輪がほしかったのか。
昔からマヨネーズで殴られたりしていたから
元々父の妹は好きじゃなかったけど、本当に嫌いだなと思った。
それに私はずっと思っていた。
おばあちゃんなんて死んじゃえばいいのに。
毎日いじめられて物をなげつけられて、恨みしかなかった私は
ずっとそう思っていた。
そしたら本当に死んでしまった。
私はどんどん闇に落ちていった。
私が殺したんだ。本当は仲直りしたかった。
昔みたいに笑って話がしたかったのに
本当に死んでしまったら、分かり合うこともできない。
いろんなことがどうでもよくなった。
おとなしく家に帰って、継母の支配の中で生きたほうが
傷つかずに済むのかもしれない。
そう思ったら気持ちが楽になった。
自分の意志はどんどんなくなり、継母の言うことを聞いた。
継母が勤めていた会社にバイトとして雇われた私は
その仕事がとても楽しくてやりがいを持っていた。
男に体を売らなくても、がんばれば稼げるんだと実感していたけれど
20万ほど入った給料はほとんど継母に取られていた。
借金があるからと言われていたけれど、あとで父にきいたら
そのときはすでに完済していてマンション購入も考えていたと。
今更だけどいいように使われてたなと。
今だったら絶対に騙されないのにと思う。
そのとき会社で出会った人とお付き合いをすることになった。
11歳年上でとっても優しい大人の人だった。
継母に付き合いを反対されて、彼のところへ行った。
家出はしたくなかったけど会うことも禁止され
仕方なく家を出ることにした。
最初はボロボロアパートに私一人で借りて住んだ。
仕事も見つけて働いた。
しばらくすると彼がマンションを借りてくれて
同棲することになった。
私が18歳の誕生日がくるときに結婚しようと約束をしていた。
彼には私の過去の話を全部した。
過去というほど昔じゃないし、本当に最近の話だったけど
彼は聞きながら泣いて、怒っていた。
自分を大切にしなきゃだめだと。
その時まで私は自分のしたことに後悔をしていなかった。
私が体を売ったことで泣いてくれる人もいなかった。
だけど、目の前で泣いている人がいる。
私のために、私を思って、心配して悔しくて泣いている。
初めて自分の馬鹿さ加減に泣いた。
ああ、後悔してももう元には戻せないんだな。
やってしまったことの代償はとてつもなく大きくて
二度と付き合う人に言うのはやめよう。
墓場まで持っていこう。そう決心した。
彼とはその後、別のことで喧嘩をして実家に帰ったら
迎えにきてほしかったのに、来てくれなかった。
実家に帰ったのが許せなかったらしい。
そのまま別れてしまった。
でも彼には感謝している。
彼と別れてから荒れることもなく、男遊びもしなかった。
自分を大切にしなきゃだめだといってくれた彼の言葉を
ちゃんと守らなきゃいけないと思っていたし
私の中でまたもしかしたらいつか誰かに愛し愛されて
幸せなお嫁さんになれるかもしれない。
彼のおかげでそう思えるようになっていた。
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