5.私は生まれなければよかった子

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5.私は生まれなければよかった子

実家ではマンション購入の話題で持ち切りだった。 借金を返し終わり、海の見えるところにマンションを買おうと 父も継母もご機嫌で、私の部屋も考えてくれていた。 今まで家出をしていたからその間に父たちは何度か引っ越しを していて、私の部屋がなかったので素直に嬉しかったし 新築のマンションで海もちかくとても楽しみだった。 マンションを購入してから 私は大手企業の派遣会社で働いた。 パソコンが得意だったからそれを生かせてやりがいもあった。 購入して数年たったころ、会社に継母から電話があった。 電話にでると 「パパが浮気して離婚したいっていってる。迎えに行くから帰ってきて。」 なんのことかさっぱりわからなかった。 たしかによく父は我慢しているなと思っていた。 継母はネットに依存していて家にいるときはずっと チャットをしていた。 ごはんを作るのも私がつくったり、父のお弁当も私が作っていた。 父は私のお弁当が好きで、いまだにお弁当をつくると 何気に喜んでくれる。 いつもほっておかれている父だった。 浮気はしないの?と父にきいたことがある。 そしたらすごい怒られた。そのときすでにしていたのかもしれない。 会社に迎えにきた継母は冷静だった。 私が思うに、継母も好きな人がいたのだとおもう。 だからチャンスだとおもったのだろう。 だけど先に離婚したいといわれたから悔しかったのだと思う。 家に帰ったら父は夜勤明けで寝ていた。 それをみて私は急に腹が立った。 こっちは会社も早退しなきゃいけなかったし、 呼び戻されて なのに本人は寝てるなんて。 「このくそじじぃ!!寝てんじゃねーよ!」 私は初めて父親にくそじじぃと言い放った。 そしたら、父は殴りかかってきた。 ソファーで首を絞められて 「お前なんて生まれてこなきゃよかったんだ!」 継母に警察を呼んでと言って警察がきた。 警察が来る前に父は家を出て行ってしまった。 逃亡…そんなことが我が家で起こるとは。 本当にくそ家族だなとおもった。 私はかなり冷静だったし、父の気持ちもよく分かった。 19歳で子供ができて、ずっと子供を手放さず 育ててきて、いざとなったらくそじじぃと言われて 私はいい子ではなかったから、そう思って当然だとおもったし あのとき、父の味方をしてあげればよかったとおもう。 父は結局呼び戻されて、現場検証、警察署に連れていかれて 指紋と写真を撮られたらしい。 でも本当はそれをやってほしかったのは継母のほう。 私をずっと虐待してた継母を逮捕してほしかったのに。 継母は父を責め続けた。 私をどうするんだと私をネタにして父を責め続けた。 父と継母が毎日怒鳴りあい、私は過呼吸になった。 夜は泣きながら起きて、過呼吸になり、毎日つらかった。 大きな音が怖かった。だから掃除機の音とか 飛行機の音がいまだに怖い。 だけど怖くないふりをしている。 どこかで怒鳴りあったりする声が聞こえると固まってしまう。 だから争いごとが嫌い。なるべく平穏を装う。 ふと思う。 本当の私はどんな人なんだろう。 いろんなものでかためて、隠して、一体どこに本当の私がいるのか。 たまにそんなことを考えていた。 継母が出て行ったことで平穏が訪れた。 継母はチャットで出会った人の家に行き、その後再婚をした。 やっと継母から離れられる。呪縛が説かれる。 そう思ってた。 父とはあの時以来、ギクシャクしていて 家にいてもほとんど口を利かないし、ほとんど父は 家に帰ってこなかった。 気まずかったのだとおもう。 私はその間に家を出る計画を立てていた。
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