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そして放送時間。
ネットTVとはいえ、1コーナー持たせて貰うのは本当に久しぶりだ。
ドラマのモブ同然の役でもなく、ひな壇の後ろの背景でもなく、自分という人間がはっきり映る。
低予算番組らしくヘアメイクも衣装担当もいないが、自分できちんと用意して、朝から入念に準備をして生配信の中継に挑んだ。
さまざまな不動産関係を紹介するバラエティ番組だが、その中に「事故物件に住んでみた」というコーナーがある。
伊織が予め撮っておくっていた生活の様子や、この間の鏡にくっきりとついた指紋の映像などが流されると、スタジオのゲスト達がわざとらしく怖がっていた。
「いおりん、実際暮らしてみて、どう?」
司会者から中継を繋がれて、伊織は少し演技を入れて大げさに恐怖に声を震わせながら、ここ最近で起きたことを述べた。
「視線を感じたり……あとたまに、変な音がするんですよ~~ドン、ドン、って……」
そう言った後、今まさにこの配信中に「ドン、ドン」といつもの音がしていることに気づいた。スタッフが気を聞かせて盛り上げるためにスタジオの方で効果音でも入れたのだろうか。
だがその音は紛れもなく今伊織がいる部屋から聞こえてきていた。
それはいつもと同じように規則正しく、一定のリズムで、「ドン……、ドン……」と聞こえてくる。ノックの音ともちがう。
何かがドアにぶつかる音のような気がした。
「……音って、これ?」
司会者が、少し怪訝そうに言ったあと、伊織の中継画面を覗き込んで「えっ」と叫んだ。
スタジオにいる他の2人のゲストも顔を見合わせて「え、うそ。やばい、やばい」と言っている。先程のわざとらしい怖がり方ではなく、本気で焦っているような様子だった。
「?」
こんな流れ、台本にあっただろうか。
「うしろ、うしろ!」
司会者の切羽詰まった声。
だが、振り向くよりも先に、モニターに映った自分の背後にいるそれに気づいた。
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