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「……まー、俺潔癖症だし人と暮らすのとか本来マジで無理なんですけど、もし三笠さんが友達いないなら俺の……」
狗飼が目を逸らしながら何か言いかけたその時、不意に伊織のスマホが鳴った。番組のプロデューサーからだった。
サーッと顔が青ざめていく。
そうだ、放送。放送はどうなったのだろう。もう放送時間はとっくに過ぎていた。生中継でプロとしてあるまじき放送事故を起こしてしまった。
震えるてで通話ボタンを押すと、怒号ではなく興奮した声が耳をつんざいた。
「いおりん!! 無事!?」
「す、すみません、俺……」
蒼白になりながらしどろもどろに言うと、彼はいつになく弾んだ声で言った。
「つぶったー見て! トレンドすごいよ!」
「え!?」
驚いて通話したままスマホを立ち上げると、番組名のハッシュタグと共に「三笠伊織」「いおりん」「事故物件」「放送事故」「ガチ」「ヤラセ」と言ったワードが並んでいる。
番組の動画もあげられており、伊織の背後に首吊り死体が現れ、ベランダへ逃げるところまでが映っていた。
ヤラセなのかガチなのかと騒然としていた。
あの時、咄嗟に自撮りカメラを握りしめて必死に逃げたため、かなり臨場感あるホラー映像になっていた。
自分の名前をタップしてみると、数えきれないほどのツブートが並んでいた。
その上、「劣化した」という感想ばかりだったらと恐る恐る薄目で中身を読んでみて、伊織は息を呑み、瞳を揺らした。
『三笠伊織久しぶりに見たら体張ってて偉すぎ。あれヤラセだとしたら演技うますぎ』
『いおりん久しぶりに見たら今でも可愛くてびっくりしたーもう25歳かー。子役の頃を知ってるから今でも頑張っててくれて嬉しい』
肯定的な意見ばかりがずらりと並んでいる。もちろん、ヤラセを疑う声もあるが、ヤラセなら逆に演技がすごいと肯定的な意見ばかりだ。
こんなことはいつぶりだろうか。
思わず瞼が熱くなり、無意識に口を押さえた。
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