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『この間深夜ドラマに一瞬出てきた人、なんか見覚えあるなーと思ったら、元アイドルの(名前忘れた)人だった』
『10年前の映画見たら子役の子すごい可愛いくてびっくりした。検索してみたら最近の画像が出てきたけど……うーん微妙』
『いおりん、いつもニコニコしてるけど裏では偉そうで性格激悪って言われてたから消えてくれてせいせいした』
「ファンの前でニコニコするのは仕事だから当たり前だろーが。私生活でもニコニコしてたら気持ち悪いだろ」
エゴサをしつつ画面越しに悪態を突きながらスクロールしていく。
薄暗い部屋で、布団を被りSNSを自分の名前で検索していると、胸を掻きむしりたくなるような痛みを覚えるのにやめられない。
大体は昔を懐かしむもの、昔と比べて今はという嘆き、劣化したという罵倒などネガティブなものだらけだ。
だが、それすらなくなったら。近頃は、ネガティブな意見すら引っ掛からないことが多い。
このままでは、完全に、忘れ去られてしまう。
そんなことを考えながら別のSNSにログインしてエゴサーチを始める。
『三笠伊織早く消えろ。これ以上劣化を見せるな』
「芸能界しがみつくの辞めろ。痛々しい』
「……またこいつかぁ」
このユーザーはいわゆる「アンチ」で、昔ファンだったらしいが、今の伊織を受け入れられないと連日「早く消えろ」「死ね」と過激な投稿している。わざわざ「#三笠伊織 #いおりん」とタグ付けされているからこちらがエゴサーチをしているのを分かっている上で行っているような気さえする。
少し前までは腹が立って仕方なかったが、完全に忘れられそうになった今、こんな強烈なアンチがまだいることに少し安堵すら覚えてしまうのが情けない。
だがそれでも、劣化、見苦しいと言われる度に、鏡を見るのが怖くなっていく。
『三笠伊織は完全に〝終わった人〟。この世界にいらない』
──いらない
その言葉を見た時、背中がぞわぞわとするような強烈な不安を覚え、伊織は慌ててスマホの画面を落とし、薄い布団を頭から被った。
芸能界を諦める。そうしたらきっと、楽になるのかもしれない。この先何をしても〝劣化〟は進む一方だ。
だが怖い。伊織にとっては、世間から完全に忘れ去られてしまうことが何よりも怖かった。
こういうとき、心を落ち着かせるためのおまじないがある。伊織は枕元に置いてあるファンレターの束を手にした。昔からのファンで、今でもずっと伊織の応援をしてくれているAさんだ。
差出人住所もなく「A」としか書かれていない。男性か女性かも分からないが、数カ月ごとに、伊織が出演した番組や雑誌などについて、丁寧で優しい手紙をくれていた。
このAさんのようなファンが残ってくれている限り、伊織は芸能界を去るつもりはなかった。
事務所に届いた最新の手紙を見ながら、伊織は少し首を傾げた。
「あくつなってきました。からだからだにきをつけて、これからもこれからもきをつけきをつけて」
「?」
最後の一文だけ、おかしい。印刷されたものなら、キーボードの誤操作かもしれないが、手書きの手紙だから少し不気味に思えて、背筋に冷たい物が落ちた。
「きっと、Aさんも疲れてたんだろうな……」
そんな風に思っていると不意にけたたましい音を立ててスマホが鳴り、伊織はビクッと肩を震わせた。
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