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学生たちは喋りながら廊下を歩いていたが、狗飼の部屋の前にしゃがみ込んでいた伊織の存在に気づき、足を止めた。
「え、誰? 早馬の友達?」
(やばい……)
泣いたせいで目は腫れぼったいし、髪はぐしゃぐしゃ、服は部屋着という最悪な状態だった。
三笠伊織だとバレないよう、無言で部屋に戻ろうとしたが、伊織が立ち上がった瞬間、彼らのうちの一人が叫んだ。
「〝いおりん〟!?」
「誰、いおりんって?」
「ほら、最近つぶったーですごいバズってた事故物件の放送事故の人。テレビにも出てるじゃん」
「昔子役でよく出てて、性癖歪むぐらい超絶可愛かったよなー」
「えっ、うそ、じゃあ芸能人ってこと!?」
「つぶったーやってないから分かんない。テレビなんか見ないし」
「早馬事故物件の隣に住んでるって言うのは聞いてたけど、いおりんの部屋の隣だったの!? じゃあここが噂の物件?」
「お前らうるさい。騒ぐな。ここ共用廊下」
狗飼は伊織に「すみません、また後で」と頭を軽く下げ、友人達をいさめたが、ああもうこれは、他人の振りは出来ないと伊織は仕方なく挨拶だけはきちんとすることにした。
「こんばんはー。お隣の部屋の三笠伊織です。狗飼くんのお友達ですかぁ?」
場が白けたらどうしようかと思いながらもテレビに出るときと同じテンションでそう話しかけると、彼らは顔を見合わせた。
「えー、実物お肌すごい綺麗で可愛いー! 握手いいですか?」
「はい、もちろんです~」
「お、俺も……いいっすか!?」
思いのほか学生たちに喜ばれて、伊織はどん底まで落ちていた気分が少しだけ回復した気持ちになった。
その時、狗飼の肩で泥酔していた女性がむくっと顔を上げ、酒焼けした大声で言った。
「私早馬と小学校から一緒だったから覚えてるけど、早馬って、いおりんのガチオタだったよね~~」
「えっ」
驚いて狗飼の方を見ると、彼はひどく動揺し、ギョッとした顔をして、自分の肩口で笑う女性を見やった。
「おい加菜! それは……」
「え、早馬ドルオタだったの? それも男の? 嘘でしょ?」
「マジマジー。一時期、〝いおりんと結婚する!〟とか言ってたし笑えるよね。あの頃の早馬すげー根暗な心霊オタクでさーマジ典型的な高校デビューだから」
「えー想像つかない!」
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