3.事故物件・中編

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■ 帝都大学は明治時代に建てられた日本で一番古い大学ということもあり、レンガ造りの校舎もいたるところに残っている。 古い校舎の中には、明らかに令和の時代にそぐわない書生姿の学生も歩いており、そういうのは当たり前のことだが幽霊だ。 目を合わせないように気を付けながら、狗飼は誰もいない朝の研究室へ入ると、購買で買った雑誌を広げた。 不倫だの交際報道だのくだらないゴシップ記事を捲って飛ばしながら、最後の方に1ページだけ載っているページに辿り着くと、狗飼は「やべ……」と思わず声を漏らした。 「~ユニセックスな魅力が止まらない いおりんこと、三笠伊織、25歳の今を語る~」 いわゆる萌え袖のざっくりとしたニットに鎖骨をちらつかせて微笑む伊織のグラビアに、激しい動悸を覚え、狗飼は一度雑誌を閉じ、深呼吸をしてからもう一度そのページを開いた。 「可愛すぎる……こんな25歳の男がいてたまるか」 そのページには、インタビューに加え、大き目のスナップショットが一枚と、それから少し引きで撮られた写真が一枚掲載されていた。 トップ写真に目を奪われ、しばらく惚けた顔でそれを眺めていたが、やがてもう一つ、小さめの遠景写真の方に目を移した。 (これもいいな。デート中に名前を呼んで振り返ったみたいな感じで……) そんな妄想をしていると、ふと、それに気づいた。 後ろで手を組みながらこちらを振り返っている伊織の写真。だが、その手首の部分がおかしい。 誰が見ても光の加減だと思うだろう。だが、狗飼は小さい頃からこの手の写真に見慣れていた。普通の人間なら気づかない、霊が映り込んだ写真も気づいてしまう。 光に見えるその白っぽい靄は、狗飼の目にははっきりと人の手に見えた。おそらく男の手だ。伊織の手首をきつく掴んでいる。 伊織の写真集やグラビアの切り抜きは大量に所持しているが、これまで心霊写真になっていたことはほとんどなかった。 地方で撮った写真の背景に、その土地の霊らしきものが映り込んでいることがあるが、害のあるようなものではなく、伊織とも何の関係もない霊ばかりだった。 この写真の手も、悪意があるようには見えないが、伊織個人に対してのはっきりとした意思のようなものを感じる。 あの部屋の霊と同じ、強い意思だ。 この手の霊は、若宮正弘だろうか。だが、だとしたらおかしい。若宮は典型的な地縛霊で、伊織の部屋のリビングにしか現れない。 どういうことだと覗き込んでいると、不意に肩を叩かれた。 「早馬~~、お前朝っぱらから暗い部屋で何やってるかと思ったらまたいおりんで抜いてんのかよ」
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