3.事故物件・中編

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呆れた顔で声をかけてきたのは、高校からの友人の沢村絢斗だった。 テニスサークルに所属し、爽やかな今時のイケメンという顔をしているが、ディープなオカルトマニアだ。 早馬の霊視能力に興味を持っており、周りでちょっとでも心霊現象らしきことが起きると、何かとうるさく聞いてくる。 当然彼は、伊織の事故物件番組もリアルタイムで見ており、放送直後はあれはヤラセなのか本物なのかと何通もLIMEが来た。 そして彼は、狗飼が今でも重度のいおりんオタであることを知る唯一の友人だった。 「こんなとこで抜くかよ。朝の読書の時間だろ」 すると絢斗は、雑誌をまじまじと覗き込んで、「うわーこの写真やばいね。あざといけど可愛いなあ」と言った。 「事故物件番組以来、俺もいおりんのこと結構チェックしてるけど、この間、早馬のマンションで初めて実物見たけどさぁ、めちゃくちゃイイコで可愛かったなぁ。笑顔で握手してくれたし、俺もちょっと、ファンになっちゃいそうだよ」 「にわかが軽々しくいおりんを語るな」 「はいはい。……つーかそろそろ、加菜のこと許してやれよ。毎晩俺に電話かかってくるんだぞ。早馬がまだ怒っててLIME返してくれないって」 「一日20回LIME送ってくるんだぞあいつ。そのうち1回は、毎日返してる」 正直なところ顔も見たくないのだが、今年成人式も済ませて成人の仲間入りをした身としては、最低限大人の対応をしようと思っていた。 「加菜は早馬が好きなんだよ。他の女子の前で、自分の方が昔から早馬を知ってるってマウント取りたがるの」 「だからって本人の前で黒歴史暴露することないだろ」 「黒歴史って……いおりんのファンだったってこと? 今もファンじゃん。しかも重度の」 「いおりんのファンを〝一度でも辞めた〟っていう黒歴史だよ」 ああそっちかと、絢斗は納得したように頷いた。 「つーか昨日のいおりんの事故物件生配信見たか? 最後に出てきた霊のドアップやばくね? いおりん、殺されてないか心配なんだけど」 「……昨日のは確実にヤラセだ。あれは霊じゃない」 「そうなの?」 伊織はヤラセだけはしたくないと言っていたから、きっと番組スタッフの意向に反対を押し切られる形になったのだろう。 明らかに作り物の幽霊に、迫真の怯え演技をしていたが、どこか後ろめたいようなそんな顔をしていた。
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