3.事故物件・中編

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■ ドラマの撮影が本格化すると、伊織はあの家には寝に帰るだけのような生活になっていた。 夜遅くに撮影を終えて近所のファミレスで必死に台本を覚える。食事は全て撮影現場で済ませ、撮影のスタジオには泊まり込みのスタッフ用のシャワーもあるためそこで済ませ、洗濯物はコインランドリーで行う。 そうして家でやることを極限まで減らしてから深夜に帰ってきて、睡眠薬で強制的な眠りにつき、早朝には再び撮影に行く。 もはや住んでいると言えるのかも分からない状態だが、それにも関わらず、ここ最近、若宮の霊は日に日にはっきりと見えるようになっていた。 帰ってくると、こちらを向いて、目を見開き、血走った目で睨んでいる。 それが恐ろしくて、伊織はリビングのドアの前に黒い布をかけて、玄関から入ると逃げるように寝室に入り、ピルケースから睡眠薬を取り出し、水で流し込んで眠りについた。 落ちるように眠れるのだが、翌朝ものすごく怠くなり、頭が重くなる。 その倦怠感は日に日に強くなり、最近は寝ている間も苦しくなり、以前は夢一つ見なかったのに、最近は悪夢にうなされるようになった。 寝室のドアが勝手に開き、黒い影が入ってくる。そしてベッドに横たわる自分の耳元で囁く。 ──シネ、シネ……オマエハ、モウオワリダ……キエロ……コロス、コロシテヤルカラナ 恐怖で叫び出したくても、叫べず、指も一本も動かせない。 目が覚めた時、冷や汗がびっしょりになっていた。処方した薬剤師に多少は副作用があると言われていたが、ここまでとは思わなかった。 これが薬の副作用なのか、それとも若宮の霊によりもたらされるものなのか、分からない。休薬すると、寝られなくなるから試せなかった。 伊織は半ば依存的になって、その睡眠薬に頼っていた。
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