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「……ヤラセ番組降りたら、また不良債権になりそうな俺をクビにしたいっていうのか」
「そこまでは言ってないけど、そんなとこ」
「はー……もういいや。俺がディレクターに直接言うから」
「いや、それはまずいよ。その辺の仕事の調整は事務所を通して貰わないと」
「事務所を通したら、番組降りられないんだろ。俺はもう、あの部屋には住めない。ヤラセ疑惑も出てるし、俺のブランドに傷がつく」
ブランドってと三浦が苦笑した。そんなお高く留まるほどの物じゃないだろうとでも言いたげだ。
「だから撮影の時以外はどっか泊ってればいいじゃん。飛鳥井くん家は? まだLIME来てるんでしょ?」
「………」
絶交宣言をしてからというもの、LIMEをもう長いことずっと無視している。こんな時だけ頼るのは虫が良すぎるというものだろう。
「ホテル代事務所の方で負担するからさ。まーダメだったら俺のポケットマネーで……」
「そもそも、実際には住んでないのに〝事故物件に住んでみた〟ってヤラセするのが嫌なんだ。だからもう降ろさせて欲しいんだよ」
すると三浦は、深い溜息を吐いて、これまで溜めに溜めていた言葉を吐き出すように言った。
「そんなこと言ってさー、もうヤラセやってんだから今更じゃん。こんなこと言いたくないけど、もう昔みたいには行かないんだよ。自分でも分かってるでしょ? ずるしたり、汚い手使ったって、生き残れるか分からないんだよ。この業界。ファンのためにって一生懸命ブランドイメージ保ってイイコやってたって、そのファンはどうせすぐいおりんのこと忘れる。不思議なんだけどね、綺麗でいればいる程、印象に残らないんだよね~タレントって。だって飛鳥井くん、ファンサしないし問題児だったけど今でも熱狂的なファンいるでしょー。いおりんは……」
三浦はそこでバックミラー越しに、傷ついた表情の伊織の顔を見て、ハッとして言葉を飲み込んだ。だが、その先の言葉は分かった。
──伊織はもうダメだ。
伊織は俯いて黙り込み、SNSの画面が表示されたままのスマホを見た。
──事故物件のやつさあ、なんか明らかにヤラセっぽくて萎えた
──いおりんの演技わざとらしい
──昔結構好きだったアイドルが事故物件に住まわされててなんか辛くなった。相方引退してから消えちゃってたもんねー。あんなことさせられても芸能界に残りたいんだ
──昨日のは、ヤラセじゃないと思う。いおりん、ファンを裏切るようなことだけはしないって、前なんかのインタビューで言ってたし
「……なんとでも言えよ。俺は絶対、ヤラセなんてやらないからな」
「分かった分かった。もう一回交渉してみるから」
バックミラー越しに見た三浦の頼りない表情に、伊織は期待できないと重い溜息を吐いた。
「あ、そこのファミレスの前で降ろして」
「また台本読みやってくの?」
「ああ」
帽子を深く被って降りると、三浦が「いおりん」と声をかけた。
「ごめんね。いおりんすごく頑張ってるのに、さっき言い過ぎた」
「……別に。俺も、全部お前の言う通りだと思う」
俯いたままそう言うと、三浦は少し焦ったように言った。
「いやでも、ほんとに顔色悪いから、無理しないで。たまに俺の家に泊まってって言いたいところだけど今……奥さんが、その、ごめん。だから……きついときはホテルとか泊まってね。お金出すから」
「……分かった。そうする」
信号が青になると、三浦は珍しく後ろ髪引かれるようにこちらを見ながら車を走らせた。
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