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「盗聴器って……」
絢斗はしばらくの間言葉を失って絶句していた。
狗飼は、全て分解して時計から取り出すと、スマホで写真を撮った。
「……絢斗、お前の先輩でこういうアングラに詳しい奴いるだろ? ちょっと性能調べてもらってくれないか。どれぐらいの距離まで届くのか分かれば、この家から半径何百m以内に住んでるかぐらいは分かるから」
「わ、わかった」
自分でも不思議なぐらい冷静だったが、腹の底は怒りと焦りが静かに煮えたぎっていた。
ただ、一つだけ分からないことがある。
若宮が強い警告をしていた理由は分かったが、伊織が霊に「呼ばれた」のではないのであれば、どうして彼はあんなに短期間にやつれ、生気がなくなるまで追い詰められたのだろうか。
狗飼はふと、ベッドの下に伊織の物と思われる台本が、落ちていることに気づいた。
開かれた首を吊った絵が殴り書きされている。そのページには、伊織が自分の台詞に蛍光ペンでラインを引いていたが、明らかにその部分だけが異常な台詞で、フォントもおかしい。この盗聴器の主が差し替えたのだろうか。
『……ごめんなさい、俺はもう終わりです。……これ以上醜くなる前に死にます』
こんなセリフに、マーカーを引いた伊織のことを思うと、犯人に対して吐き気を催すほどの嫌悪感に駆られた。
伊織はこのドラマの出演を、心から喜んで、楽しみにしていたのだ。
「あのさあ、さっきいおりんの寝室行ったとき、気になったことがあって」
「……?」
「これ、枕元にあったんだけど」
絢斗がポケットから、ピルケースを取り出した。
「アイスリープ 1回1錠」と几帳面にテプラシールが貼ってある。おそらく、伊織が貼ったのだろう。
「アイスリープって俺も受験ストレスで一時期不眠になった時飲んでて、内科でも処方してくれるような一番軽い睡眠薬なんだけど、ちょっと変わった形しててさ。トローチのちっちゃい版みたいな。だから、よく覚えてたんだけど、なんかこれは記憶と色が違うなーと思って、ちょっと気になって検索してみたんだけど。……これ、PSっていう今流行りのその……やばいクスリじゃないかって。アイスリープと形が似てて、睡眠薬みたいに強烈に眠くなるから〝アイスリープ〟ってモロに隠語で使われてるらしい」
「………」
絢斗はPSの注意喚起を促すWEBページを見せてきた。
『睡眠薬のような効果を発揮し、非常に強い倦怠感、浮遊感、幻覚、幻聴、憂鬱感、依存性をもたらす危険なドラッグです』
「まさか……」
伊織がドラッグなどやるはずがない。だがもし誰かが、ピルケースの中身を「すり替えて」いたのだとしたら。
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