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「可愛いなあ、伊織。こんなに可愛い子は、後にも先にも会ったことがない。僕は本当に、この頃の伊織が好きだったんだ。世界中の誰よりも、君のファンだった。将来、絶対自分がプロデュースするんだって楽しみにしていた。……でも、今はもう」
四ノ宮は伊織の顎下を靴先で持ち上げ、ひどく汚らわしいものを見るように伊織を見た。その顔は、恐ろしいほどの怒りに歪んでいた。
「日に日に醜くなっていく君を、これ以上見てられない。君は恥知らずで、厚顔無恥で、目立ちたがりで…引き際をまるで分かってないね。君のファンが今の君にどれだけ失望しているか、わかってるのか?!」
四ノ宮は不意に激昂し、伊織の頭を思い切り踏みつけた。床に強く顔が押し付けられ、頬がズキズキと痛む。
「頼む、もうやめてくれ……分かった。芸能界はもうやめる。明日にでも、いや、今すぐ引退発表してやるよ。もうやめるから……それで、いいだろ」
気づいたら、泣いていた。恐怖よりも何よりも、一度は信じた人にここまで今の自分を踏み躙られたことが、ただただ悲しかった。
「それじゃダメなんだ。完璧に、この世界から消さない限り、僕は君を探して見てしまう。見てしまったら、その存在を認めざるを得なくなるだろう。幽霊と一緒だ」
「……こんなところで俺を殺したら、お前、すぐ捕まるぞ」
「違う。伊織は自分で死ぬんだよ」
「……俺は死なない。お前みたいな奴に、負けるつもりはない」
頬に幾筋も涙を伝わせたまま、睨みつけると、四ノ宮は言った。
「大丈夫。死にたくなるように手伝ってあげるから。伊織はもう、あと一歩のところまで来ているだろう」
伊織はゆらゆらと揺れる視界と、ぐちゃぐちゃになった思考の中で拳を握りしめた。冷たい汗が、じわりと染み出す。
「伊織、あの番組降りたがってたよね。リタイアじゃなく、綺麗な形で終わらせて欲しいってマネージャーに頼んでた。これがそのエンディングだ」
そう言って彼は劇場奥のスクリーンに、何かを映した。
眩しさに何度も瞬きしながら、伊織はそれを見つめ、思わず呻いた。
暗闇の中、ベッドの上に、まだ二次性徴も間もない伊織が裸で横たわっている。あの夜の映像だ。
「なんでこれが……」
衛士は、映像は撮られてなかったと言っていた。
「あの夜、本当は何があったのか、伊織は知らないだろう。飛鳥井君が、全部消し去ったからね」
──何もない。伊織はなにもされてない。撮られてもいない。間一髪で俺が助けてやったんだ。
衛士の声が何重にもなって聞こえる。
「何も無かった! あの夜は、何も無かっただろ!!」
思わず悲鳴のような声が上がった。その映像の先を、見たくなかった。
「真相は全部、僕と飛鳥井君と……映像だけが知っているよ。……ああ、でも、今はもう〝映像だけ〟だね」
「? どういう、ことだ」
靄がかった思考の中でも、何か引っ掛かりを感じた。
嫌な予感がする。それも、ひどく。
だが四ノ宮はそれに答えず、機材を操作し、動画の音量を上げた。
「今からあの夜の全てを見せてあげよう。僕の最高傑作だ」
まるで絞首台に向けて背中を押すように、彼は言った。
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