4.事故物件・後編

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開けてみるように促されて中を見てみると、Lamentが解散してから去年までほとんど仕事がない中で、ほんの時折モブ同然の役で出ていたドラマのDVDや、雑誌のコラムまでもが全て整理されて保管されていた。 「うわ、こんなマイナー雑誌の切り抜きまでもってんのかよ。ウェブ記事のスクショまで……」 自分でも受けたことを忘れていたような仕事の記事まで保管されていて、全てを見られたような気分になり、恥ずかしさに顔が真っ赤になる。 「ガチのガチのガチファンですから。握手会も毎回行ってましたし」 「あ……待て。お前マスク1号か!?」 言われてみれば、見覚えがある。こんなイケメン風の若者が、男のアイドルのファンをやることもあるのかと驚いたのを思い出した。 マスクのファンの中で、一番熱心だったため、1号と名付けていた。彼が狗飼だったなんて、信じられない。 狗飼は伊織を見て、苦々し気に口を開いた。 「アイドルを辞めるという決断は、俺には引き止められません。ずっと、苦しかったと思うし、俺達に、長い間笑顔を届けてくれてたから、ありがとうって言葉しかありません。ただ、これだけは忘れないでください。あなたの笑顔に救われた人は、大勢いる。あなたの笑顔を守りたいって思ってる人もたくさんいるんです。それはきっと……あなたが思っているよりもずっと強く」 狗飼は何かを思い出したように少し遠くを見ながらそう言って、さらに言葉を続けた。 「俺は、今の三笠さんが好きです。日に日に綺麗になっていくこれからの三笠さんを見るのも楽しみです。三笠さんがアイドル辞めても、これからも、一生、唯一無二の推しです」 「…………」 伊織は呆気に取られてしばらく惚けたようになっていたが、やがてカアッと頬を赤らめた。 「そんな恥ずかしいこと、本気で言ってるのかよ」 「本気ですよ」 「そんなこと言って……今後、お、俺以外のヤツ推したら絶交だからな」 思わず子供のようなことを思わず口走ると、狗飼はしばらくの間驚いたように沈黙していたが、やがてふっと笑って言った。 「それなら俺、一生絶交されることはありませんね」 「なっ……」
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