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「ま、マジですか!? 絶対ちゃんねる登録します!」
「は? 何言ってんだ。お前も手伝うんだよ」
「……え? 何を」
「配信の内容、オカルト調査チャンネルにしたから、お前を助手にしてやることにした。給料もちゃんと出すから、バイト代わりにもなるだろ」
「え……」
思わず戸惑いを滲ませると、伊織は少しバツの悪い顔で言った。
「幽霊をこういう風に扱うのは辞めたほうがいいっていうんだろ? 分かってる。でも俺、本当に怖いのは、その正体を確かめないことだって思うんだ。ずっと、何も知らないまま、マサくんのこと、怖がってた。でも……みんな、見えないだけで、色々言いたいことがあったり、伝えたいことがあるんだよ。そういうの、ちゃんと調べて、分かってやりたいっていうか……」
「三笠さん……」
彼の言う通りだった。狗飼自身、幽霊にはいい思い出がなく、今回のことも、若宮の霊が、伊織を自分の元へ引きずり込もうとしていると誤解し、あんな事態になった。子供の頃からずっと、彼らの存在を視えていたはずなのに、長いこと無視し続けて、まるで見ていないも同然だった。
「……まあ、そういうことなら……。給料いらないんで、その代わり絶対一人行動は禁止で。俺を同行させてください。あああと、顔出しなしならいいですよ」
「勿体ねーなぁ。お前、イケメンだから顔出ししたらそれだけでチャンネル登録伸びそうなのに」
推しにイケメンと言われて、喜ばない男がいるだろうか。だがそれでも、不特定多数に顔を晒す必要はないと、マスクを着用して手伝うことに決めた。
「ま、という訳で、お前を助手にしてやるから、しっかりやれよ! マスク1号! ……よしまずは、PCのセットアップからな」
「え……それ俺がやるんですか。三笠さんが買って来たやつなのに?」
「当たり前だろ。助手なんだから」
当然のように言っているが、あたりには説明書が散らばっていて、苦戦の痕跡がある。リングライトも、一応コードは接続されているが、どうも向きがおかしいし、何よりライトが点いていない。何か組み立てを間違ってそうだ。
きっと何度読んでもセットアップできなかったのだろうと推察出来て、微笑ましくなった。
「……しょうがないですね。やってあげますよ」
「なんだそのヤレヤレ感。もっとやる気出せ」
「ハイハイ」
説明書を見ながら、パソコンをセットアップし、リングライトも組み立て直すと、ピカッと明るい光がついた。
「点いた! 狗飼、サンキュー」
眩しいほどに強い光を浴びて、屈託なく伊織は笑う。
それを見て、狗飼は、「ああやはり、この人はどこにいても、スポットライトが似合うな」と思った。
「……Aさん、勝手にアイドルやめて残念がってるかな」
リングライトの光を浴びながら、伊織がふと、呟いた。
「……」
「ああ、悪い。Aさんっていうのは、長年俺のファンやっててくれた人で、たくさんファンレターくれてた人なんだけど……最近、全然来なくなっちゃってさ。ちょっと様子もおかしかったし、気になってるんだけど……」
狗飼はなんとなく、その「A」の正体が誰か分かっていた。どういう理由でそんなことをしていたのか分からないが、おそらく飛鳥井衛士だろう。
「Aさんは、別に三笠さんがアイドルだから推してたってわけじゃないんでしょう?」
「うん。俺の……全部を見てくれてた」
「それなら喜んでると思いますよ。三笠さんが、前向きに新しいこと始めたってことで」
「……そうかな」
「事務所辞めちゃったんで、ファンレターは届かなくなるかもしれませんが、チャンネル開設したら、きっとどこかで見てくれてますよ」
「そうだな。ついでに、海外にいるバカ衛士も気づくように、チャンネル登録者数100万人を目指そうぜ」
「はは……それは無理じゃないですか」
「だからもっとやる気出せって!」
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