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「スポンサーから、要求が来たよ」
プロデューサーの夏井の言葉に、会議室に緊張が走った。スポンサーのご機嫌は、そのまま番組の方向性と行く末を決める。
ディレクターの近藤は、おそるおそる聞いた。「どんな?」
横でADの篠崎も、不安そうに夏井の目を覗き込む。
「変身シーンが、短すぎるってさ」
三人だけの会議室に、大きなため息が響いた。
地方のテレビ局、「ほのぼのテレビ」が制作した子供向け変身ヒーロー番組、雷撃鬼神ホノボライザー。
日曜の朝5時45分というニッチな15分間で、悪の手にかかった小学生から助けを求められ、変身し、悪を退治し、「みんなは知らない人についてっちゃ、ダメだぞ」などと教訓を垂れて締めくくる。
もちろん、仮面ライダーは天上人だ。超神ネイガーの足元にも及ばない。
それでも、定番の県警交通安全教室や、商工会主催の芋の子汁お振舞イベントにも駆り出され、地元ではそこそこ名の知られたヒーローだ。
千葉で開かれるローカルヒーロー祭りには、まだ呼んでもらえていないが。
夏井が椅子から立ち上がって、近くのテーブルを端に寄せた。
「やあって飛んで」5㎝飛んだ。「とうって降りたら」5㎝どすんと落ちた。「変身完了してるでしょ。おれも『コントみたいだな』とは思ってたんだよ」
「15分の番組に、変身シーンで尺使えませんよ」近藤が困り顔になる。
「分かってる。それに、おれ、変身シーン長いの嫌なんだよ」
「どうして?」
夏井はひざを少し曲げ、やや屈むような格好で両手を広げた。
「ヒーローが変身完了するまで、こうやって待ってるでしょ? 悪人の方々。『今、襲えよ!』って思わない?」
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