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 中学校に行く道のりは、さした傘の下から見える他人の足を頼りに歩く。前を見なくても自分の数メートル前に靴がないことを確認すれば意外に歩けるものだ。信号だって、周りとあわせて止まればいいし、青になったかどうかは周りが歩き出したら行けばいい。さすがに時々は傘の隙間からそっと周りの様子をうかがうことはあるけれど。 これは、人からの視線を感じることが嫌な僕が生み出した苦肉の策だ。視線を感じたくなくて傘をさし始めたけれど、傘をさすことで余計に視線を集めてしまうという悪循環を生んでいる。他人が僕を見る理由はわかる。自分でもおかしいと思う。しかし、傘をさしている限りは直接その視線を浴びることはない。わざわざ傘の下から覗き込んでくるやつはいないから。  直接浴びなければ、それは視線を集めていないことと同じだ。もしかしたら、傘を閉じて他人を見た時に、誰も僕のことなんて見ていないかもしれない。そうしたら傘をささなくても歩けるかもしれないのに、確かめる勇気はなくて、僕は今日も傘をさす。  アスファルトの上を歩く足。たくさんの色の靴が散らばった虹のようだ。革靴を見れば、会社員かなと思うし、小さい足の靴は子どもたちだし、僕と同じ白い靴だと、同じ学校の生徒だなと分かる。
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