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裏口を出ると、その先は草木の生える小さな庭になっていた。
物陰からそっと覗いてみる。
ダニエルは庭のすみにしゃがんでいた。
城壁沿いの、灌木の茂みの側だ。
地面にパピルスの束を置き、膝をついて、四つん這いになっている。
「えっと……。ここら辺か。どこにいるのかな……」
困った顔をしながら、何かを探すように、茂みを覗き込んでは、腕を突っ込んでいる。
鳩がダニエルの周りで、騒がしく鳴いていた。
いつの間にか鳩がもう一匹増えて、二羽だ。
「いた。見つけた!」
嬉しそうになったダニエルは茂みをかきわけ、何か小さなものを拾っていた。
小さい生き物が、ダニエルの手の中で鳴いている。
鳥のヒナだ、と俺は察した。
ダニエルの周りの二羽の鳩は、羽ばたいたり、飛び回ったりして興奮していた。
「大丈夫、まだ生きてるよ。巣はどこ? え? 城壁?」
ダニエルはまた鳩に問うと、パピルスの巻物とヒナを大事そうに抱えて、今度は近くの警備の者に向かう。
相手は城壁の警備中の男だ。
城壁の下、外階段の近くで、武装して立っていた。
ダニエルがその男の前にゆき、二人で話す声が聞こえてくる。
「あの、城壁に登りたいんです。入れてもらえますか」
「何の用だ」
「上に鳩の巣があって、このヒナがそこから落ちました。巣に戻したいんです」
「しかし警備の者以外は、入れない決まりだ」
警備の男は、ダニエルが持ったヒナを見て、渋い顔をしている。
ダニエルは困ったように、城壁と、手元のヒナを交互に見ていた。
その周りを鳩が二羽、激しく鳴きながら飛び回っていた。
俺はダニエルのように鳥と会話は出来ないが、それでも親鳩の二羽が声の限りに鳴いているのが分かった。
胸を刺すような、悲痛な鳴き声だ。
ダニエルは肩を落とし、しょげている。
少し離れた物陰から見ていた俺は、小さくため息をついた。
何でもかんでも助けるなと教えたはずなのに、やはりダニエルには見捨てられないらしい。
(仕方がない、手助けしてやるか)
つくづく、俺もダニエルに甘いな……。
ゆっくり歩いて、二人の前に俺が姿をあらわした。
ダニエルの背後に立つと、
顎を少し上げ、目線と手で、警備の者に軽く合図を送る。
「こいつを入れてやれ。すぐに終わる」
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