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「護衛はいらん。ひとりで行く」
護衛をその場に置き、俺は回廊の大きな窓を乗り越えた。中庭に降りると、ダニエルが去った方向に大股で歩いて向かう。
クックック、楽しい狩りの気分だな!
野で鹿を追うような気持ちになり、俺は面白く感じていた。
趣味の悪い悪戯かもしれない。
しかし俺はダニエルに気がついたのに、ダニエルの方は俺に気が付かないことが悪い。
干し煉瓦で作られた通路を曲がれば、急ぎ足でゆくダニエルの背が見えた。
頭の上の鳩が、羽ばたきながら騒がしくさえずってる。
「うう、分かった、分かりましたってば。これでも急いでいるんです。すぐに探しますから」
ダニエルの独り言のような、慌てた声が聞こえた。
どうも、鳩と会話をしているらしい。
「えーと、こっちなんですね」
対話するように、鳩はバタバタと羽ばたいている。
しだいに小走りになってゆくダニエルは、いくつもの角を曲がってゆく。
ダニエルは南城から、隣接した主城の方に向かっていた。
あいつは一体、何をしているのか……?
俺はますます、不思議に思った。
足音を立てないように、俺が歩いているせいか、ダニエルはまだつけられていることに気がついていない。
その背を見失わないようにしながら、後を追った。
ダニエルは鳩を連れ、王宮の裏口に向かってゆく。
日干し煉瓦で組まれたのみの、飾り気のない質素な出入り口だった。
王宮で働く者たちが使う場所だろう。
普段の俺は裏口など全く使わない。ダニエルも身分的に出入りしない場所のはずだ。正直、裏口の先がどこに続いているのか、俺には見当もつかない。
だが、ダニエルはためらいなく裏口を通り、外に出てゆく。
たまたま近くを通りがかった下女が、身分の高い服から察したのか、俺を見て仰天していた。
「しっ、静かにな」
俺は小さく笑って、籠を持ったまま目を丸くしている下女を黙らせた。
彼女は緊張した顔つきで、道を開けて黙ってうなずく。
愉快に思いつつ、俺も裏口を通り過ぎた。
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