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「え? えええ? 寝室に来るように呼んだのは陛下ですよ。王宮書庫から急いで来たのにどうして怒るんですか」
わけがわからないという顔つきで、ダニエルが不満そうになった。
そうか。それで勉強中のパピルス書簡を抱えたままここに来ているのか。
俺は顔をそむけて、ふんと鼻を鳴らした。
「命令でも断れ。襲われて泣いても知らんぞ」
「もう! また陛下は訳の分からない命令をするんですね!」
俺はまたため息をついた。
分かってない。こいつは何も分かっていない。
自分の身の危険をもうちょっと感じたほうがいい。
「こんな時間まで書庫にいるのもだめだ。ダニエルの教育係は宦官のアスペナズだったな。普段の教育はどんな内容なんだ」
「はい、シュメール語、アッカド語、カルデアの文学。バビロニア数学に、メソポタミアの歴史、法律に、建築。その他バビロンで学べる学問はほぼ全て履修させていただいています」
「そうか、分かった。若者が日々勉学を頑張っているのは良いことだ。しかしその教育は優等生を作るものだな……」
「まだ何か足りないのでしょうか?」
ダニエルは不思議そうに小首をかしげている。
こいつは努力型の秀才だ。バビロンの学び舎の教師陣からも文句の付け所のない、品性方向な若者だ。
友達と夜に遊ぶとか、羽目を外すとかしているのを見たことがない。
素直過ぎるように見える。社会の影の面から隔離されて育ったようで、汚れがない。
そこに問題や疑問を感じるのは、俺自身がちっとも純粋な性格ではないからだろうか。
「問題は大ありだ。まあいい。来い」
俺はダニエルの腕を取り、強引に寝台に引きずり込んだ。急に引っ張られて驚いたようで、彼は持っていたパピルスの巻物を床に落とした。
「わ! 何ですか、陛下」
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