第28話 監査部からの電話

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第28話 監査部からの電話

 充電していた会社携帯のバイブ音が聞こえ、僕は驚いてソファーからずり落ちた。真剣に寝てしまったらしい。番号通知には会社の電話番号が並んでる。誰だろう。今日は連絡ないと思っていたのに。 「はい。八城です」 『監査部の真鍋です。お休みのところ失礼します』  二日前に面談した真鍋室長だ。お休みって、嫌味かよ。僕は時計を見る。昨日、僕らに時を教えてくれた腕時計は十一時を指している。二時間も寝てた。に、しても中途半端な時間だな。 『明日から出社をお願いします。パソコン、スマホは出社時にお返しします』  僕は一瞬何を言われたのか理解できなかった。これは、自宅謹慎が解かれたってわけか? 「あの……それはどういう」  それとも、解雇通知なんだろうか。でも、『明日から』って言ったな。 『普段通り、出社してくださいってことです。機器類はご自宅までお届けするのが筋ですが、この天気ですし。明日こちらでお渡しすることでご了承ください』 「疑いは晴れたってことですか?」  電話の向こうで、真鍋室長は笑ったように思えた。ふんっと軽く鼻息が耳に届いた。 『そうです。お疲れ様でした』  お疲れ様だと? なんだよ、その言い方。申し訳ないの一言あってもいいんじゃないか?  今日がこんな天気じゃなかったら、今すぐ出向いて文句言ってやりたい。明日から出社ってのは、大雪だけのせいじゃなくて、僕らの頭を冷やすための時間稼ぎなんじゃないのか。そりゃ僕だってサラリーマンだから、これ以上立場を悪くしたくはないけど……。 「わかりました。で、誰がリークしてたかわかったんですよね」 『はい。でもこの電話ではお伝えできません。詳細は明日、会社でご説明しますので』 「他の同僚たちも同じですか」 『はあ、まあ、明日行かれたらわかりますよ』  何も手の内を明かさない。この人を食ったような言いよう。不愉快になってきた。 「そうですか。それは失礼しました。では、明日定刻に出社します」  腹立ちまぎれに電話を切るとソファーに投げつけた。電話に八つ当たりしたって仕方ないのに。でも、一体誰だったんだろう。こんな目に合わせてくれた奴。  それでも、悪意があったんじゃなくて、誰かに騙された結果であって欲しい。もしそうならその人もクビにならないはずだ。これまで通り、一緒に働くのは無理だとしても。  ――――いや、もういいや。そんなこと、もうどうでもいい。  疑いが晴れたんだ。とにかく今は、喜ぼう。
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