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第33話 恋のライバル?
真っ白なハーフコートにピッタリしたストレートのデニム。ショートブーツまでがセットになっててファッション雑誌から抜けて出てきたみたいだ。
身長が高くて目鼻立ちがはっきりした大づくりの美女。良く言えば華やかな、悪く言えば自己主張の強い美人だ。
僕はその迫力に圧倒され、視界に入らないよう先輩の背後に隠れた。
「今、世話役の方に聞いたけど、女性でも参加できるって。来週から私も選手として参加しようかな」
な、なんだとっ。ちょっとだけ顔を出す。
「いいんじゃないか。他所のチームにも女性がいるとこあるぞ。佳乃なら十分やれるだろ」
でも、このチームは大学の元サークルメンバーで活動してるんだ。彼女は関係ないじゃないか。そりゃ最近では、違うのもチラホラ入って来てるけどさ……。
見た目だけで言うと、運動神経いいんだろうな。身長、庄司君より多分高いよ。性格も男だって先輩言ってたし。
「ハチ、何してる。ゲーム始めるぞ。さっさとアップしろ」
僕の気も知らないで、先輩が呼んでる。はいはい、今行きますよ。
「はあい。今行きますっ」
シューズの靴紐をしっかりと締め、フィールドに向かう。なんだか視線を感じた。恐る恐るその視線を確かめると、思った通り、佳乃さんと目が合った。
ニコリ。というより、ニヤリ。て感じで口角を上げる。僕は反射的に軽く会釈し、アップしてるメンバーの輪に入った。
――――完全に存在感で負けてる……。
もしあの人が恋のライバルだとしたら、絶対勝てない。僕は心の中で、こっそり白旗を上げた。
今日の僕はいつも以上に調子が悪かった。そんなふうに思ってるのは僕だけかもしれないけれど。シュートは悉く外すし、パスミスはするし、あげくに空振りを演じてしまった。ボールから目を一瞬離した。他に気の取られることが多すぎなんだよ。
先輩にもだけど、佳乃さんの前であんな失態は見せたくなかった。しかも、いつもはそのまま解散なのに、世話役でこのサークルの発起人、神田さんがみんなをランチに誘った。いつも文字通り世話になってるからさすがに断れない。
「佳乃さんも是非」
汗をタオルで拭いてる後ろで、神田さんが佳乃さんを誘ってるのが聞こえた。マジか……。今日みたく調子悪い日じゃなくてもいいのに。
「ありがとうございます。喜んでっ」
だよね……。そういうとこ絶対遠慮しなさそう。
結局、近くにあるファミレスにメンバーのほとんどが集った。総勢十人。二つのテーブルに分かれたけど、もちろん佳乃さんは先輩と同じテーブルに座った。
僕は別のテーブルに行こうとしたんだけど、それは無理な相談だったらしい。普通に先輩の隣に座る。彼女は真ん前だ。めっちゃ目のやり場に困るんだけど。
「初めまして。二宮佳乃と申します。新条君とは同期なんです」
注文が終わると、彼女は率先して挨拶をした。フルネーム初めて聞いた。頭がいいのが湧き出てくるようなしっかりとした発声だ。菜々美ちゃんの甘えた感じとは真逆のハンサムボイス。
ウチのチームは神田さんを始め、いい意味で気を使わない連中だから、すぐに打ち解けた。自然と話題は彼女を中心に回り、僕はストレートのミディアムヘアがサラサラと忙しく動いているのを眺めることになった。
「君は……新条君と家が近いの? いつも一緒に来てるけど」
食事が進み会話もひと段落着いたとき、突然僕に振ってきた。喉にエビフライがつまりそうになった。
「はい……。同じアパートに住んでます」
「え? 同棲?」
「違うよ。何の興味だよ。ハチは俺のアパートの二階に住んでんだよ。俺は三階」
先輩が隣から助け舟を出してくれた。今度はエビフライを吹きそうになったから助かった。
「ふうん、そうなんだ」
彼女のキラキラした瞳がより一層光った気がした。居心地悪っ。
「八城って言います。先輩にはいつも世話になっています」
今更だけど自己紹介した。彼女はまだ何か聞きたそうだったけど、神田さんが別の話題を提供してくれた。背中に入りそうなランチ。とにかく無事に終わってくれ。
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