第九章

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 僕らが走り去ったホームで、キャンベル警部はマクミラン一味を取り押さえた。 「警部、グリフィス先生たちがどこにも見当たりませんが」  困り顔のコール警部補に向かってニヤリと笑う。 「気にしなくてもいい。先生たちはご旅行だよ」  と言ったかどうかはわからない。  船のデッキに出ると、さすがに波風が強い。夏のドーバー海峡はこれでも波が静かだと言うが、体に感じる揺れは想像以上だ。 「俺、船は初めてだよ」 「ああ、僕も久しぶりだ。前にこの海峡を渡ったのは学生時代だったからな」 「イーサン、フランス語は大丈夫なの?」 「任せておけ。もっとも耳のいい君の方が、すぐに話せるようになると思うけどね」 「ねえ、俺がボスに渡した封筒には何が入ってたの? 例の写真だけにしては厚かったように思うけれど」  金色の髪を風になびかせながらジョシュアが尋ねる。 「あれは、君とあいつがやり取りした証拠だよ。僕を脅す手筈を書かせたろ?」 「ああ、あれかぁ。イーサン、意外に悪いんだな」 「賢いと言ってくれ」  駅で写真を渡すまでのやり取りのなかで、僕はマクミランに脅迫の一部始終を書かせるよう仕向けた。  それが奴らの脅迫の証拠になるかはわからないが、警部にとって役に立ってくれればいいと思っている。まあ、後は彼らに任せればいいことだ。知ったこっちゃない。 「僕も、ジョシュアと一緒にいるためなら、何でもやるのさ」  ジョシュアは僕の顔を穴のあくほど見つめると、ころころと笑い出した。そして、手すりに寄りかかり、今度は真面目な顔をして告白する。 「俺もさ。俺もロンのこと、気にしてないわけじゃないけど、あいつを見捨てる覚悟はできてた。俺はイーサンと一緒にいるためなら、何だってする。最初に言ったとおりだ」  それでも君は最後まで精一杯頑張った。警部とした約束も嘘じゃない。僕はわかっているよ。  でも、いいんだ。僕はもう構わない。君が何者でも、どんな過去を持っていても。僕は君を愛していて、君も僕を愛していてくれる。それで十分だ。僕らにはお互いしかいないんだから。  僕は彼の肩をぽんぽんと叩く。 「見てごらん。港が見えてきた。フランスだ」  船は灰色の煙を吐きながら波をつんざいて走っていく。僕らを新しい希望の大地へと導いて。  もう誰にも邪魔させない。僕とジョシュアの物語は今、始まったばかりだ。さあ行こう。自由の世界へ。 
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