第三章

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 今まで、何を聞いてもはぐらかすばかりだったジョシュアだったが、今夜は違うようだ。ようやく話す気になったのだろうか。 「怪我をしたから来たんじゃないのか」 「怪我をしたから来たんだよ。でも馬車を下りてすぐ、気を失った」  ロンドンからここまで、馬車なら一時間ほどで着くだろう。どこまで本当のことを言っているのかわからないが、それではあの大けがをしたまま馬車に揺られ、ここに来たというのか。 「何故、僕のところに来たんだ? 君はどうしてここを知っていた?」  寝転がるジョシュアに、僕は見下ろすような形で尋ねた。彼は両手を伸ばして僕の束ねた長い髪を触る。 「質問ばっかだ。今日はもうおしまい」 「もう少し、知りたいんだけどな」 「また、明日。ねえ、眼鏡外して。眼鏡してるイーサンも好きだけど」  駄々っ子のようにそう言って僕の髪を引っ張る仕草をする。僕は眼鏡をはずすと、すぐそばにあるサイドボードに置いた。 「これでいいか?」  ジョシュアは満足そうに頷く。 「来て。もう一度やろう。今朝と同じこと」  今朝と同じこと……そう言われて僕の心臓がいきなり駆け足を始める。そのつもりでいたのか、そうでないのか。彼の話をもっと聞きたいのも本当だが、どうでもいいと思う気持ちもあった。 「好きだ……イーサン」  彼の上気した頬が桃色に染まっている。ウェーブの金髪が僕の指に絡まる。誘う青い瞳に自分の愚かな顔が映る。それでも……僕は彼の唇を貪っていく。  ――――好きだ……僕は、ジョシュアを愛している。  深く、深く夜は更けていく。音もなく降り積もる雪が、ウィンブルドンの丘を白く染めていく。僕はただジョシュアの甘い吐息だけを聴きながら底のない愛欲の沼に溺れて行った。
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