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「ジョシュア、入るよ」
マリアが帰った後、僕はジョシュアの部屋に入った。返事はなかった。彼はベッドの上で泣いていた。
僕は彼のすぐ脇に座り、金色の巻き毛を撫ぜた。
「どうして……」
枕にうつ伏せたままの、くぐもったジョシュアの声が聞こえた。
「うん? どうした?」
「どうしてみんな、俺らのことを放っておいてくれないのかな」
鼻をすすりながらジョシュアが言った。
「そうだな。なんでだろうな。僕もわからないよ」
「俺は……俺はイーサンと一緒にいたいだけだ」
起き上がったジョシュアは僕の背中に自分の頭を乗せ、両腕を抱えるように回した。僕はその手に指を絡める。
「俺はイーサンが好きなんだ。それだけなのに。どうしてこんなに苦しいの? 俺には、イーサンしかいないのに!」
僕の肩に縋って泣く君……繋ぐ手指は細く長く、僕は手に力を入れる。どれほどに君が愛おしいかわかるかい?
「僕にもジョシュアしかいないよ」
「イーサン……」
「ジョシュア、僕と一緒にフランスに行こう」
『えっ』と、小さな声を出して、ジョシュアが顔を上げ腕を離した。僕はジョシュアの方に体を向け、彼の小さな顔を両手で包み込む。
「僕と、来るね?」
彼は青く宝石のような瞳に涙をいっぱい貯め、何度も頷いた。
「もちろん。イーサンとならどこにでも行くよ」
ジョシュアは僕の腕の中に飛び込んできた。僕はそれをしっかりと受け止め、腕が痺れるほど抱きしめた。
僕たちは急がなければならなかった。それは、僕らがフランス行きを決めた翌日、突然現れたキャンベル警部が告げたことに端を発した。
警部はスコットランドヤードの馬車ではなく、汽車で、それも一人でやってきた。服装もラフな、まるでテニスの観覧にでも来たように見えた。
「急いで伝えなければならないことがあって」
「どうしたんですか?」
警部は汗を拭き拭き、例によって待合室に座った。
「マクミラン一味のことは覚えていますよね」
「はい。ジョシュアがつかまっていた組織ですよね。ロン君も……」
「彼らが、あの、新聞を見て」
「え? まさか」
ああいう連中が新聞を読むのかどうかは別にして、それでジョシュアのことを知ったとしても、今更また、ジョシュアを捕まえにくるのだろうか?
「連中はジョシュア君が有名になれば、脅せると判断しているのでしょう。だから、彼の行方を捜しているようなのです。それで先日、ロン君が見つかって」
「ロンが? ロンがどうしたの?」
いつからいたのか、ジョシュアが飛び出してきた。ロンの名前が出て、隠れていることが出来なくなったのだろう。
「ああ、ジョシュア君。先生、構いませんか?」
「僕がいるから大丈夫です。続けてください。ジョシュア、ここに座って」
ジョシュアは僕の隣に大人しく座った。
「ロン君はマクミラン一味に捕まったということですか?」
「ああ、いえ、そうではないのです。彼は自らそこにいました」
「どういうことですか?」
ジョシュアは何故か何も言わなかった。隣で少し項垂れるように目を伏せて、警部の話を聞いていた。
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