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警部が語った話は、恐らくジョシュアはある程度分かっていたのかもしれない。
ロンは退院後、ロンドン市内の教会に住み込みで働いていた。どこでもらったのかはわからないが、新聞でジョシュアの写真を発見したようだ。
そして彼は……それを持ってマクミランのところへ自ら行ったのだ。
ロンがいなくなったことはスコットランドヤードのキャンベル警部に伝えられ、もしかしたら捕まったのかとマクミラン一味を張る。案の定、彼はそこにいた。
「ロン君はすぐには帰ろうとしませんでしたな。いい話を持って行ったから、お金も仕事ももらえると、本気で思っていたようです。でも、マクミランはそんな簡単な連中じゃないですから」
「ロンは今、どうしてるの?」
ようやくジョシュアが口を開いた。ロンのやったことに、ジョシュアは尋ねることも責めることもせず、そう聞いた。
「今は拘留してるよ。正直またマクミランとつるまれても困るからね。これでもかなり譲歩しているつもりだ」
「ねえ、イーサン。俺がもらった賞金。まだ手付かずだよね?」
賞金。ジョシュアが詩の新人賞で得た賞金だ。大きな額ではなかったが、ジョシュアの給金の二ヶ月分にはなった。
「ああ、もちろん。出版社との契約はまだだけど、あのお金は君のものだ」
「警部さん、俺からと言わずに、そのお金をロンに渡して欲しいんだ。一度にじゃなくてもいいから、あいつが一人で生きていけるようにして欲しい。これからも俺に稼ぐことができたら、少しずつでもお金を送るから」
「ジョシュア……きみ……」
「そんなことは君がする必要はない。我々の方で目を光らせておくし、マクミラン一味をさっさと壊滅させるよ」
「違うんだよ。ロンがどうしてそうしたか。俺にはわかり過ぎるくらいわかるんだ。
あいつは俺に裏切られたと思ったんだ。ずっと一緒に逃げて、ずっと一緒にいたのに。いつの間にか俺だけ幸せになっていたことに気が付いたんだ」
『ロンが死んで、俺は解放されたと思った』。いつだったか、ジョシュアは僕にそう言った。ようやくロンという枷が外れ、僕のところにやってきたジョシュア。
自分だけが僕というパートナーを得たことに、君は罪悪感を持っていたのか?
――――助けてやりたい。ジョシュア、君は幸せになっていいんだ。だからこそ……。
僕はある作戦を思いついた。警部にとっても願ってもない話じゃないだろうか。お金だけで解決できることではないが、スコットランドヤードがロンから目を離さずにいてくれたなら、彼もやり直せるかもしれない。
もちろん結局は本人次第だけれど、誰かが気にしていることを知れば、人は努力できるんじゃないかな。
「警部殿。ジョシュアの願いを聞いてもらえませんか。ロンがまともな生活を送れるよう気にかけて欲しいのです。金銭の援助もジョシュアの言うようで構いません。その代わり、マクミランをおびき出し、逮捕するお手伝いをします」
警部とジョシュアは同時に僕の顔を見た。
「そんなことが……できますか?」
「恐らく。もちろん、スコットランドヤードには僕らを守ってもらいます。それと、容疑は脅迫か誘拐未遂なので、あまり大きな罪には問えないかもしれませんが」
「いや、それは大丈夫です。一度拘留してしまえば、こちらで何とでもします」
自信ありげに警部はそう言った。もしかしたら、警部は僕らに協力を願いに来たのではないだろうか。とすれば、うまく乗せられたのか?
そう思ったが後の祭りだ。やるしかない。
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