もう少し、を絶つ仕事

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 アルコール中毒で入院しているこの男性は根本と言いアルコールを絶って二ヶ月過ぎている。中毒症状が重度だったことを考えるとかなり良い結果だ。ふと時間が空いてしまうとアルコールの事ばかり考えてしまう。その時間の意識を別のことに集中させてあげればアルコールから抜け出せると思う。  普通の患者ならここで「いやでもなぁ」と言うのだが、根本は思いのほか今の話に食いついてきた。 「確かにそれはいいかな。そうだよな今が踏ん張りどころだ、これさえ乗り切れば俺は陽菜に会える」  突然妻から離婚を切り出され、そのストレスからあっという間にアルコールにはまってしまった。娘は成人して独立しているとはいえ、唯一の家族に会うために根本は日々頑張っていると思う。  娘には恋人がいて結婚も考えているとか。それまでに回復したいのと、相手に立派な父親だという印象でありたいと言う願いからアルコール依存である事は隠してもらってるらしい。  根本には何が何でも治療し回復したい目的があるのが治療の後押しをしていた。 「結果はすごく良いんです、他の患者さんに比べるとびっくりする位ね。無理をしない範囲で前に進んでいきましょう」  本来は他の患者と比べるのはやってはいけないが、相手の性格やモチベーションに合わせて言葉を変える必要がある。根本は自尊心を認めてあげればやる気が出るタイプだ、このままいけば順調に症状が回復して退院する日もそう遠くは無い。  他にもいろいろな患者が入院している。薬物とアルコール、そして意外にも薬の中毒者もいる。麻薬とは別に、市販品の薬だ。薬がないと体が良くならないと思い込んでしまっている者たち。過度な薬の服用は体にとって逆に毒である。  これらの共通点は自分の体を壊しているということ。まず強制的に摂取をやめさせなければ、命に関わることも多い。そしてストレスがたまってイライラしている患者の話をまず聞く、ストレスの矛先の受け身になる、趣味や好きなことを見つけさせ他のことに意識を集中させる。とても大変な仕事だがやりがいがある。
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