もう少し、を絶つ仕事

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「布施さん」 「はい?」  二人看護師が通り掛かったので、顔見知りの看護師の1人を間宮が呼び止めた。食事をしながら書いていたカルテを渡す。 「アルコール中毒の患者さんの受け入れ、一名分進めといて」 「それは構いませんけど、病室空いてないんじゃないですか」 「一ヵ月以内には根本さんが多分退院できるから。むしろ今このタイミングで入れておかないと、根本さん一生退院できなくなる」 「そうですね。わかりました、一ヵ月先では遅いと思うので半月後に入院患者を受け入れる方向で調整しますね」 「そうして。新堀さんにもこの情報を必ず伝えておいてね。あと、彼の持ち物注意しといて」 「はい」  その場を後にした看護師二人。まだ配属されたばかりの若い看護師が不思議そうに訊ねてくる。 「今のどういう意味ですか?」 「あなたも知っておいてほしいんだけど。カウンセラーの新堀先生には細心の注意を払ってね」 「え?」 「あの人はね、。もちろん本物のカウンセラーなんだけど。患者が回復してきたら悪化させて入院引き延ばすから。今回で言うと、そろそろ他の患者に目を向けさせないと根本さんにアルコール飲ませるわ」  だから、絶えず入院患者を受け入れ続ける。彼の治療は不可能だからだ。布施が受け取ったカルテの患者名は「新堀」。 「わ、かりました……」  青ざめながら麻薬中毒者の病室の前を通り過ぎると声が聞こえてきた。 「吉永さん、体調はどうですか。今日はおかしなものは見えてないですね、素晴らしいですよ。麻薬をやってしまったあなたが悪いんではないです、そうせざるを得なかった状況が悪いんです。だから一緒に頑張りましょう」  仕事は大変だ。不規則だし休みもバラバラ、休日も常に仕事の事を考えてしまう。あの人は体調良いかな、あの人はちゃんと約束守ってるかな。そんな事の繰り返しで少し体調を崩したけど。  もうちょっと、もう少しだけ、がんばってみよう。  だって僕はカウンセラーなんだから。皆が僕のカウンセリングを待っている。  もう少し。  もう少し。 END
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