首輪のない野良犬 1

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森を後にしたレナードは、盗賊の頭の所へ寄り報酬を受け取り街へ降り立った。 ダリウス国は豊かな国で、あれ以来大きな戦争は起きておらず、静かな平穏に恵まれている。 レナードの手の中には、今回の報酬の小さな箱があり、その中のいくつかの宝石類を裏ルートで売り捌き、生活資金に回している。 「・・・シオボールドね・・」 市で購入した林檎を一口囓りながら、盗賊の頭の名前をぽつりと口に出す。 最も、その名前は偽名であると簡単に推測される。何故なら、シオボールドという言葉は、ダリウス国で復讐者という意味を持っているからだ。 シオボールドと名乗った男は、盗賊の頭にしてはどこか品があり、盗賊特有の乱雑さが感じられなかった。 元は貴族、と言われた方が納得できる風貌をしていた。 だが、今は盗賊まがいなことをしていて、なおかつ、メルヴィンを連れてくるように命じたこともあり、個人の恨みが考えらる。 「恨み・・か」 ふと、足を止めてぼんやりと空を仰ぎ見る。鮮やかに透き通る青空がレナードの赤い瞳に写り込んでくる。 復讐を考えなかったわけではない。なぜ自分が?という気持ちになり、怒りや憎しみに心が覆い尽くされそうになったこともあった。 だが、復讐に心を奪れかけたものの、なんとか持ち直し今の暮らしがある。 「まっ・・俺には関係ないだろうし・・」 ふう、と軽いため息をついて気持ちを入れ替え変えていると、人混みの中、足を止めたレナードを迷惑そうに避けて行く人たちを見て、慌てて流れに従うように足を進めた。 シオボールドの青色の瞳は、余計な詮索はするな、と言葉にしないものの、瞳がそう語っているようだった。 ならば、深入りは禁物である。 最も、彼らになにがあったかなど、騎士でもない自分には関係のない話である。 いつものように、一つの依頼を終えたレナードはその足で通い慣れた店へと足を進めた。その店は、レナードが贔屓にしている店で、依頼を受ける際はそこで受ける決まりのようなものができていた。 『月の晩』と看板の酒屋についたレナードが、最後の一口の林檎を食べ終えて、ゆっくりとした動きで扉を開ける。 からん、からb、と扉につけられた鐘が鳴る。 「パトリックを頼む」 「かしこまりました。ライオネルは【暁】におりますよ」 「わかった」 店へと入ったレナードがいつものように店主にそう声をかけると、依頼人を知らせる用語を話してきた。 店内を使わせてもらうための費用と、酒代を木のテーブルの上に置き、琥珀色の酒を受け取り指示された部屋へと向かった。 パトリックとライオネルは隠語になっていて、レナードが自分の依頼人を把握するために使用している。 酒屋は一階にあり、暁と呼ばれる部屋は階段を上って突き当たりの部屋のことを指す。 目当ての赤い扉の前にたち、室内の気配を探る。それは最早彼の癖のようなもので、用心のため剣をいつでも抜けるようにしながら扉を軽く叩いて、「レックスからライオネルへ」と部屋の中の住人に向かって語りかけた。 「どうぞ」 扉の向こうから聞こえてきたのは、若い娘の声で、彼女の声はどこか緊張を含んだ声色をしていた。 レックスは何でも屋を営むレナードの仮の名前のようなものだ。 了承を得て、部屋の中に入ると、中にいたのは歳若い娘で、表情はどこか暗く、顔色も良いとは言えない。
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