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 任意同行を求められ、辿り着いた警察署で事の概要を聞いた。 「やっぱり聡介くん、前から虐待されていたみたい」  私の前に座る婦警はそう話す。聡介、と書くことも初めて知った。 「聡介くんのパパ、借金を全部ママに背負わせて出て行ったんですって。それで、ママは必死に働いて借金を返していたみたいだけれど」  やっぱり女手一つで子供を育てるのって、今の社会じゃ難しいのよね。婦警は遠くを見ながらそう言った。  小学校に入学しても、給食費が払えない。服を買うお金もなく、ゴミに出されたものを漁っては着ていたらしい。それでも、必死に聡介を育てようとしていた。 「朝は新聞配達からスーパーのレジ打ちのアルバイト、その後は風俗……それを毎日続けていて、精神を壊しちゃったみたい」  パニックになっていたのも、薬の飲み過ぎとお酒の飲み過ぎだったようだ。今のところ、容態は安定しているらしい。 「それで、ソースケは……」 「今は児童相談所の職員が話を聞いているわ。多分、母親があの状態だと入院になるだろうから……一旦施設に預けられるんじゃないかしら。彼もメンタルケアが必要だろうし」  ごめんなさいね、お仕事お疲れのところ、と婦警は微笑んだ。私は慌てて首を振る。 「ごめんなさい、私……ソースケを最初に見た時から虐待じゃないかって思ってて。もっと早くに相談していたら、こんなことにはなっていなかったんじゃないかって」  話しながら、自分の無力さに涙が滲んだ。  思わず拳を机の下で握りしめる。 「虐待の通報って難しいわよね。もしそうじゃなかった場合申し訳ないって思うし……通報しても、匿名だから誰が通報したかはわからないことになっているけれど」  すみません、と頭を下げた。私がこの婦警に頭を下げても何の意味もないことも、わかってはいた。 「2人を助けて通報してくれたのは益岡さんなんだから、謝らないで」 「でも」  そう言ったところで、控えめに扉がノックされた。  婦警が立ち上がり、扉の外の人物と一言二言言葉を交わし、戻ってくる。 「聡介くんがあなたに会いたいって言っているんだけれど、どうする?」  私は間髪入れずに頷き、お願いしますと頭を下げた。  あまり自分を責めないでね、と優しく微笑んだ婦警は、そっと扉を開けて私を誘導した。
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