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7
「おねーさん」
私を見ると、ぱっとソースケは椅子から立ち上がり駆け寄って来た。
「ごめんなさい」
私の前まで来ると、ぺこりと頭を下げる。あちこちに湿布や絆創膏が貼られ、痛々しい姿になったソースケを思わず抱きしめた。
「謝らなくて良いんだよ」
「でも、でも僕がいなかったら、ママも苦しい思いしてないし、薬も飲まなくていいし、お姉さんに迷惑かけることもない」
私はぶんぶんと首を振った。違う、違うんだよ。ソースケは悪くない。たぶんきっと、誰も悪くない。私がそう言ってさらに抱きしめると、おずおずとソースケも私の背に手を回した。
そっと体を離して、ソースケの小さな手を握る。室内だというのに、その手は冷たかった。
「ねえ……僕のママ、今どこにいる?」
私を見上げる目はどこまでも澄んでいて、言葉に詰まった。
病院に入院している、と答えれば、きっと彼は自分のせいだと思うだろう。
答えられないまま、私は彼の手をぎゅっと握った。
唇を噛み締めたソースケは、私から目を逸らして俯く。
「ねえ、……また、ママと暮らせるよね?」
不安げな顔の彼を、しゃがみこんでもう一度抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言って背中をぽんぽんと叩くと、堰を切ったようにソースケは泣き出した。
温かな涙が私の服に染みる。大丈夫、大丈夫だよ。私は言い聞かせるように、背中を優しく叩き続けた。
今の私にできることは、それだけだった。
そして、この子にこれから少しでも幸せな世界が訪れますように。そう願わずにはいられなかった。
窓の外では、はらはらと今年初めての雪が降っていた。
灰色の雲が、重く空を覆っていた。
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