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そして、季節は流れて。
これが三寒四温だ、と言わんばかりに寒い日と温かい日が数日おきに来る3月。
「お疲れ様です」
「おう、おつかれ」
早番の勤務が終わってタイムカードを切る。店長に挨拶して事務所を出ようとした、その時だった。
コンコン、と控えめに扉がノックされる。はあい、と間延びした声で店長が答えると、静かに扉が開けられた。
「あっ……」
私は思わず息を呑んだ。
そこには、ソースケとその母親が立っていた。
母親の方は長い髪をばっさりと切り、金髪は黒髪になっていた。落ち着いたスーツを身に纏っているので、だいぶ印象が違う。
あまりの変貌ぶりに私は思わずはぁ、と声を漏らした。
ソースケはというと、少し背が伸びて、健康的な体型になっていた。あちこちにあった痣は消えている。母親の服の裾を握り、所在なさげにしていたが、私を見るとぱっと顔が明るくなった。
「おねーさん!」
ソースケが私に駆け寄る。
「こら、ソースケ」
慌てて母親がたしなめる。そして、親子揃って深々と頭を下げた。
「ご迷惑を、おかけいたしました」
店長があたふたと立ち上がる。
「いやいや、顔を上げてください。お二人とも……今は、お体の方は?」
あれから店長には簡単に、母親の状態とソースケのことを話しておいた。
「今は母子生活支援施設で暮らしています。病院に通院して、以前のようには働けていないんですけれど……あ、パチンコはもうやってないです」
あれは稼げるものじゃなくて、娯楽だから。母親は苦笑いでそう呟いた。
その通りです、軽快に店長は笑う。とりあえずよかった、と母親に微笑んだ。
「全部が解決したわけではないんですけれど……ご迷惑をおかけしましたし、まず謝罪をしなきゃと思って。それに、益岡さんには本当にお世話になったので」
そう言って私に向き直ると、母親とソースケはもう一度頭を下げた。
「ありがとうございました、そしてご迷惑をおかけいたしました」
「おねーさん、ありがとう」
いえいえ、と私も頭を下げる。私は何もやっていませんから、と言うと、母親は静かに首を横に振る。
「いえ、あの時益岡さんが来てくれていなかったら……きっと私、この子をもっと酷い目に遭わせていました。こんなに、大事な子のはずなのに」
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