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「益岡さん、男の子どうなった?」
左耳のイヤホンから、店長の声が聞こえてきた。
ちょっと待ってね、と男の子に伝え、店長にインカムを飛ばす。
「どうも母親が中で打ってるみたいです。すぐ戻るって言ったらしいんですけど」
そう報告すると、ううーんと唸る声が聞こえてきた。
「この寒い中外にいたら風邪ひいちゃうだろうから、とりあえず中に入れてあげて。店内はまずいから、事務所に来てもらおう」
店長はそう指示した。了解しました、と答えた後、私はもう一度少年に向き直る。
「ここだと寒いから、中に入って待ってていいよって」
そう言って手を差し出すも、困ったように首を傾げて動こうとしない。
「でも、お母さんがここで待ってろって……」
ドアが閉まっていても聞こえてくる、店内の騒音にかき消されるほど小さな声でそう言い、目を伏せる。
「お母さんにも伝えておくから、ね?」
行こう、と半ば無理矢理に手を取った。
私よりもずっと小さな手は小刻みに震え、氷のように冷たい。少しでも温まるように、とぎゅっと握る。
こくん、と頷いた少年の手をそっと引いて歩き出した。
太陽はとっくの昔に沈み、頭上では紫色の空が冷たくどんよりと広がっていた。
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