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店長からホットココアの缶をおずおずと受け取った少年は、「ミタソースケ」と名乗った。
「数字のサンの漢字に田んぼの田、ソースケは書けない」
小さな声でそう説明する。暖房の効いたバックヤードの事務所にいるのに、まだ血色が悪い。
仏頂面の店長は、困ったように頭を掻いた後、
「とりあえず、膝掛け取ってくるから。母親も探しておく」
ソースケの頭に手を乗せて、歯を見せて笑った。ソースケの表情が少しだけ柔らかくなる。
店長が出て行くと、私とソースケだけが残された。
私はその場に突っ立ったまま、椅子に座るソースケを見る。
ぼんやり立ち尽くしていると、ソースケの方が口を開いた。
「ママ、僕のせいで怒られる?」
私は目を見開いた。外に置いてけぼりにされて、ずっと放置されているのに、それでも母親を心配するなんて。
「……大丈夫だよ。店長、顔は怖いけど優しい人だから怒ったりはしないはず」
とりあえず、私も彼の前の椅子を引いて座った。
「よかった。ママ、僕のせいで辛い思いしてるから」
「……?」
僕のせい、とはどういうことだろう。首を傾げると、ココアの缶を握り直してソースケは小さな声で言う。
「僕ができたせいでパパはいなくなったんだって」
「……そうなんだ」
そう相槌を打つことしかできなかった。私の方が彼よりよっぽど大人のはずなのに、何も言えない自分が不甲斐なかった。
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