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「悠介…今日は一緒に帰ろう」
翌日、翔太からそう声をかけられた悠介は
嬉しそうだった。
翔太もまたイジメの標的にされたが
何故か翔太はそれほど悲しくはなかった。
翔太の身体の中に暖かい光の様なものがあって
それを感じる度、イジメられる悲しみや不安は
和らいだ。
「翔太ちゃん良いかい?
これからも自分の心を見失っちゃダメだよ。
友達は大切にしないとだからね」
そう言い残して千代婆ちゃんが亡くなったのは
翔太が中学生の時だった。
■
それから随分と長い月日が経った。
高校/大学を卒業して就職が決まり
結婚して子供も出来て翔太は大人になった。
荷物が全て運び出された殺風景なマンションの
一室で翔太は独りふと昔を思い出して
目を閉じて自分の手で目隠ししてみた。
今まで必死に頑張って生きて来た。
家族を養う為、一生懸命だった。
会社員として納得出来ない事でも会社方針にも
我慢して従った。
少しでも給料を上げようと残業の日々
いつもイライラして家でもちょっとした事で怒る
ストレスの塊の様な人間になっても
それでも妻と子供の為だと思って働いた。
…そして昨日、妻と子供は家を出て行った。
リビングのテーブルには離婚届が置いてある。
目を閉じてもあの頃見えた光はもう見えない。
ただ暗闇が広がるだけだ。
翔太には自分の居場所が分からなくなっていた。
「もう…終わりにするか」
一歩ずつマンション10階のベランダへと近づく
地面のコンクリートを視界に入ると足が竦んだが翔太は勢いよく頭から身を乗り出した。
「♫〜」
その瞬間リビングの床に置いてあった
スマホが鳴った。
【翔太、久しぶりだな。元気かい?】
悠介からのLINEメッセージ
リビングに戻ってスマホを手に取った翔太は
背中に婆ちゃんの懐かしい温もりを感じた気がした。
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