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「そのために進学させてあげたじゃないの。なんのために勉強してるの? 自分の『力』を使うときがきたと思わないの?」
確かに自分は、人のけがを癒やす『力』を持っていた。誰かのために役に立つ『力』を持つ者はそうはいない。特殊な『力』を持つ子どもが集まる、更の学校でさえ自分と同じ能力を持った生徒はいなかった。
それほど『力』を持つ者は減ってしまったのだ。
更は学校の歴史の授業を思い出していた。
文明が発達し、平和は続いた。人々は『力』に頼らずとも、平穏に日々を過ごしていくことができるようになった。だんだんと『力』も、ソーサラーも、歴史の中だけの存在になっていったのである。
だが17年前、隣国との大戦で軍とともに戦ったソーサラー達がいた。市民を守り、攻め込まれた北の都を守り抜いたという。そのできごとは、今も人々の記憶に深く刻み込まれている。
その地に父もいたのだ。
しかし、彼が北の都から、帰還することはなかった――。
父がしていた仕事に就いてみたい――という憧れが子どもの頃はあった。同じ仕事をすれば、どこかで父に会えるんじゃないかと本気で思っていたのだ。
「善は急げよ。今、ここで、決めてくれない? やるか、やらないか」
母はしびれをきらしたように更の目を覗き込む。
――やるか、やらないか、すぐに決めろなんて。
母はいつもこんな風に唐突に言い出して、自分のペースをかき乱してくる。
「自分の『力』を使う時が来たと思わないの?」そう、母は言った。
(私の『力』が誰かの役に立つかもしれない――)
自分にやれるかなんて、分かるわけない。やってみない限り。
そう考えれば、やらない理由は思い浮かばなかった。母への反抗心も少し。母の勢いに負けたくなくて、やめるなんて言いたくなかった。
「どうする?」
母はもう一度尋ねてきた。
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