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速い――更は必死についていった。大通りを駆け抜けていく。
道路周辺には、野次馬だろうか、見物客がずいぶん集まっている。どの人も一斉に火の方へ顔を向けていた。その人達の隙間を縫って走る。
サイレンを鳴らす消防車、警察官の交通誘導の声が入り混じって、あたりは騒然としていた。皆、走り去って行く二人には目もくれない。
「あのビルです――」
二人はビルの外階段を登り切った。立ち入り禁止の古びた張り紙が貼ってあるドアを開けると、フェンスが張り巡らされた屋上に出る。円柱状の大きな貯水タンクがあるだけで、あとはこれといって何もない殺風景な場所だ。
「下がっていてください」男は冷ややかに一言だけ告げた。
更は、ハッとしてドアの前で足を止めた。
フェンスの向こう側、20、30メートルくらい先だろうか、大通りを挟んで煙を吐き出すマンションが目に入る。男はフェンスの間際まで進むと、立ち止まった。
突然、すべてを吹き飛ばそうとするかのように、突風が吹き抜けていった。黒い煙が一気にこちらに向かってくる。更は腕を顔の前にかざして、思わず目を閉じた。だめだ、見なくては――自分の目で確かめなきゃ。必死に目を細めて顔を上げた。
男の背中越しに、左の手の平を胸の前でかざしているのが見える。それと同時に、周囲の空気が冷えていくのを肌で感じた。ぴりぴりとその波動が空気が乗って更の皮膚を刺激してくる。
なんて『力』の大きさだろう。
「あの光――やっぱりそうだ」
男は手のひらにその青緑の光を、乗せていた。濃い、とても濃いその光を大事そうに両手に乗せ、頭の上に差し出し、そのまま天に向けた。
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