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人生で一番長い一日
――魔道士になりたい?
人に感謝されて、給料ももらえる。だが命の保証はしない。
……お前に、この言葉を贈ろう。
「ちからを おおいなる ひかりへ」
聞き覚えのない、男の人の声。でもどこか懐かしい気持ちになる声だった。
(誰? 何の話? そう、確か私は)
「ちからを、おおいなる、ひかりへ……」
更はその言葉を口にしながら目を開けた。
「夢?」
広いホールには大勢の生徒が座っている。舞台上には、学校長が朗々とスピーチを続けている最中だった。
「生徒諸君。古代、我々は光を統べる『力』を操ることができた。君たちは、その礎を継いだ者達である……」
更は次に続く言葉を、聞かずとも想像がついた。何度も聞いたセリフ。
「決して傲らず、ひたむきに学び続けることが、いずれこの国の発展と平和を支える大きな力へとなる」
卒業式くらい、素直に卒業おめでとうだけでよくない? 更は思わずあくびが出てしまった。あわてて手で口を押さえる。
「あ、あくび!」隣に座っていたサニーが更の顔に向けて指をさした。
「だって、いつもおんなじ話なんだもん」
サニーのきらびやかな指先のネイルが光る。ガウンの下は赤い派手なワンピースを着ていることを更は知っていた。
「ねえ更、式が終わったらご飯食べに行こうよ」
「ごめん、今日は帰らなきゃ」
「えぇー!!」サニーは不満そうに口をとがらせる。
「どうせ同じ大学に行くんだから、またいつでも会えるじゃん。ね?」
更は何気なく答えると、前に向き直った。
まさか、それからずっとサニーに会えなくなるなんて。
更はこの時、想像もしていなかった。
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