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37 エピローグ
「って、ことでめでたし、めでたし、なのかな?」
目の前のゆったりとした椅子に腰を下ろしてややふんぞり返り気味な早乙女の前で碧と洋一は何とはなしに言葉に詰まった。
今日は2人合わせて早乙女の事務所に呼び出されていたのだ。
碧は早乙女との賭けの事もあるし、一度話をしないといけないとは思っていたが洋一の前では話しづらい内容であるのは確かだった。
「で、碧くんとの賭けは私の勝ち、でいいよね。あー楽しみ碧くんとのデート。」
嬉しそうにそう言う早乙女は内容に固まってしまった洋一の様子に気付かない。
洋一は洋一で、碧との事では不本意ながら後押ししてもらった事もあり、自分としても不本意ではあるけれどお礼の一つでも言わなければと思っていたのだ。
ところが、碧との賭けについて持ち出され、その結果が碧とのデートだなんていただけない。不機嫌になるのはしょうがない事だった。
「そ、そんなの今言わなくてもっ。」
「だって、今言っておかないと碧くん幸せ過ぎて忘れちゃいそうだな、と思ってさ。」
「そ、そんな事ないですよっ。」
「残念だったよね、あと2日だったのに。」
そう、あと2日洋一に会わなければ碧の勝ちだったはずなのだ。そうすれば洋一が望んでいる勉強も早乙女がバックアップしてくれるはずだったのに・・・。
洋一が店をたたむと言わなければ。今城が碧に荷物を片付けに行くように言わなければ。そうしたら碧は『Ciel』へ足を運ぶこともなかっただろうに。
本当に惜しかった。
「ね、洋一くん、私が言った通り今城さんに手紙を出して正解だっただろう。」
機嫌の良さそうな早乙女の言葉に今度は碧が固まる。
「え?もしかして洋ちゃんがお祖父さんに手紙を出したのって早乙女さんの差し金なんですか?」
「あっ・・・まぁぁ・・・ちょっとしたアドバイスをだね・・・。」
「それはズルです!ズル!行かざるを得ないじゃないですか、引っ越しの為に荷物を片付けて欲しいだなんて頼まれたら。断れないように仕向けて洋ちゃんと会わせるなんて詐欺だー!」
碧の剣幕に早乙女はタジタジとなる。
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