1 兄と弟

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「斎藤さん、お時間大丈夫ですか?そろそろ休憩時間不味いんじゃないですか?」 洋一は話題を変えるように斎藤へ声を掛ける。 「あっ、本当だ。今日はゆっくりしすぎた。 うーん本当は碧くんにもう一回会いたかったけど、時間がないや。 マスターお勘定ここに置いておくから。碧くんにもよろしくね。 じゃ、またっ。」 バタバタと荷物を抱えて斎藤はドアベルを派手に鳴らして出て行った。 「斎藤さんはいつもバタバタしてるねぇ。 休日にでも来ればいいのにねぇ。」 その方がゆっくり出来るのに、という玄さんの言葉に肯定も否定もせず、 洋一は斎藤が飲み終えたコーヒーカップを片付け始めた。 バタバタッ。 「あ、あれ?斎藤さん帰ったんだ。」 「時間なんだってさ。碧ちゃんは偉いねぇ。毎日お手伝いして。」 「いや、これぐらい当たり前だしっ。それにその言い方、俺何歳になったとおもってるの。」 照れ臭そうな顔をする碧は褒められ慣れてない。 幼子に言うような誉め言葉にも頬を染める。 「あっ、洋にぃ、俺洗うから貸して。」 碧は洋一が下げたコーヒーカップを洗おうと手を伸ばした。 「いや、俺がやるからいい。それよりアオは勉強してこい。 見ての通り客は玄さんだけだし、俺一人で事足りる。」 取り着く島もなく、洋一から返されるのはいつもの言葉だ。 手伝いを申し出ても、いつもいらないと言われる。 さっき褒められたばかりなのに、何だか洋一に断られたら、 褒められた事も否定されたみたいでいたたまれない。 「・・・ん、じゃ・・・俺ここで勉強していい?こっちの方が落ち着くから。」 「ダメだ。集中できないだろう。それにお客様にご迷惑だ。」 洋一のこの言葉もいつもと同じだ。 碧の願いが叶えられた事はほんの数回しかない。
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