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「いえ、俺の恋人の碧を貸し出すみたいな事は出来ません。碧には俺以外の男と2人になって欲しくないし。な、俺の願いきいてくれるよな?」
「うっ・・・。」
大抵このお願い攻撃をすると碧は折れてくれるのは実証済みだ。ほら、今も碧がうん、と首を縦にーーー。
「じゃ、碧くん、洋一くん、2人とデートすることにするよ。そうだ、そうだ。それなら2人きりじゃないし、いいよね、碧くん。」
「それ、スッゴイ良いアイデア!それならいいよね、洋ちゃん。」
下から瞳を潤ませて洋一を見上げるこのアングル。この攻撃に勝てたためしはない。
「わかったよ・・・。」
洋一の答えにバンザーイと2人で喜んでいる姿を尻目に洋一は疲れたようにガックリと肩を落とした。
(何か、この2人気が合うんだよなぁ・・・)
楽しそうな2人がデートプランを相談しだす姿を見ながら、洋一はここ数週間のバタバタを思いだしていた。
あの後、碧に言った通り洋一は店をたたみ引っ越しをした。
碧の荷物は泊まりに来ること前提で同じ家に移動させることになった。
洋一はまた一から大学へ入り直そうかと思ったが、既に取り終えた単位もありイチから勉強する必要がないことが分かった。
その上でしばらく離れていた法律の知識をもう一度学びなおそうと毎日勉強に励んでいる。
早乙女からの提案は洋一にとってみればとても有難い事だった。
何年も離れていた法律の世界は法改正や細かな条例、条約の制定など洋一が学生だった時よりも複雑になっていた。
それでも学び直すことは楽しい。実際に現場で活躍している早乙女の事務所でバイトをさせてもらえるならば直にその空気を感じ取れるので願ってもない事なのだ。
碧が賭けてくれていたのは洋一の為だった。
それが分かっただけで洋一の心の中は暖かな気持ちでいっぱいになる。
兄と弟という立場のままで傍にいようとしていたあの頃にはこんな優しい気持ちになることはなかった。
いつも苦しくて切なくて、眉間に皺が寄っていたように思う。
それが想いを伝えあった後では何もかもが違って見えた。
自分が生きる原動力が碧なように、碧にとっても洋一がそうであって欲しい。
何より大切な恋人を悲しめないために洋一は碧の意見を尊重するようになった。碧も洋一の事を考えて話をしてくれる。
お互いが”特別”な存在であり続けるため、お互いを大切にする。それが2人の出した結論で、これからも根底にある想いだ。
(この幸せな時間をいつまでも続けるために、俺はお前のそばにいるよ。)
目の前で楽しそうに話している碧を見ながら考えていたら碧がこっちを向いてとても綺麗にほほ笑んだ。
(俺も、俺も、ずっと傍にいるよ。)
碧からの想いもまたその微笑みの中に息づいていた。
おしまい。
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