屋上と、彼と私と

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 漫画やアニメなんかじゃ、屋上は青春の舞台になるけれど。 「現実は封鎖されてるんだよねえ」  ドアノブを引っ張るも開く気配はない。  やれやれ、とため息をついて、屋上へと続く階段に腰を下ろす。  そもそも屋上が開いていたところで、青春するような友人も恋人も仲間も、私にはいない。  購買で買ったパンの袋を開けて、文庫本を開く。  もそもそと食べながらページを捲っていると、階下から足音と話し声が聞こえてきた。 「げ。やだやだ」  私は慌てて立ち上がる。ここは唯一の安寧の地だったのに。教室で1人で本を読んでいると目立つから、1人になれる場所を探して、ようやくここを見つけたのに。  階段を駆け下りるも、上ってきた集団と鉢合わせしてしまった。 「あれ、山岡さんじゃん」 「何してんの? ご飯ここで食べてんの?」  階段を上り、気さくに話しかけてきたのは、同じクラスの男子達。悪い人達じゃないのはわかる。だが、いわゆる『陽キャ』と呼ばれる彼らと、『陰キャ』に分類される私では、やっぱりその間には見えない線が引かれている気がする。 「あ、はい、あの、……また」  目を逸らして階段を駆け下りる。そんな、態度の悪い私には気も留めずに男子たちはまた別の話を始めた。だが。 「山岡さん」  最後尾にいた男子に声をかけられる。名前は確か本田くん。 「……あ、はい?」  おずおずと振り返ると、彼は笑って私の持っていた本を指さした。 「俺もそれ、好きだよ」  なんと返せば良いかわからず、曖昧に笑って首を傾げる。 「ここで読んでたんでしょ。ごめんね、俺ら邪魔しちゃったよね」  小声でそう言いながら片手で拝む。  首を横に振る私に、 「場所変えるようにあいつらには言っとくから、じゃ」  それだけ言うと彼は階段を駆け上って行った。  私も慌てて踵を返して階段を駆け下りる。赤くなった顔を、見られるのは恥ずかしかったから。  いやいや、好きだって言ったのは私じゃなくて本だし!
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