Don't ask why…

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単車が遠ざかる音に気が付いて時計を見ると、もうすぐ十三時。それは母の耳にも届いたようでキッチンから郵便取ってきて!と声が聞こえたわ。 はーい、と返事をして外に出ると空では鳥が歌を歌い太陽の光が優しく降り注ぎ、草花はそれを一身に受け、空気は春の香りでいっぱいだった。 私は雨で錆び付いてキイキイ叫ぶ郵便受けから手紙を取り出した。向こうから入れるときも鳴るから、こっそりラブレターを入れるのは至難の業ね。 家のドアを開けながら確認すると二通は母宛だった。もう一通は私宛。差出人の名前は無くて白い紙が貼られた赤い封筒の真ん中に綺麗な文字が並んでいたの。 『親愛なるダイアナ様』 その鮮やかな色を見て、まさかと思って急いで封を開けてみた。 『抜擢おめでとうございます!期限は一ヶ月!見事達成された暁には賞金10000Gを贈呈いたします!』 やっぱり!これだけあれば一生飢える事はない。母とご馳走を食べられるわ。 「お母さん!主演決まった!例の赤い封筒!絶対やり遂げるわ!お金はあるに越したことないわよね!」 赤い封筒。それは名誉ある主演の印。一攫千金のチャンスでもある。私は(きた)るべき台本読み(顔合わせ)に備えて箪笥の中の小物を確認した。 母がキッチンから顔を覗かせて「貴女に主演なんて務まるの?」と言ってきたけど、かまやしないわ。次の機会はいつになるか分からないんですもの。 もう分かってると思うけど…私はダイアナ。どこにでもいる普通の女の子よ。ただ少し…怖いもの知らずな面があるけど。良かったら覚えておいて。 お金は裏切らない。そうよね?高い野菜を買えばその分美味しいわ。肉もそう。牛乳だってそう。私はお金と家族は信頼してる。 だから達成する自信があった。お芝居するのも夢だった。だから想像もしてなかったの。まさか、あんな事になってしまうなんて―
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