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藍花の先輩だと言って手続きをしに来たリョウは、恋人にプロポーズしようと指輪を持って待ち合わせ場所に向かう途中で事故に遭った。本来そこで亡くなるはずだった五歳の男の子を庇ったのだ。 そういう稀に起こるアクシデントで黄泉市の住人になった者には、その後の選択肢が最大限与えられる。無数にあるその中で一番高条件なのは蘇生で、文字通りの効果が得られるのだけれど死亡した時点で体の損傷が酷い場合は選択できない。 選択することができる項目は、それぞれの魂分証明書に全て記載されている。 自分の証明書に記載されているものより高条件の選択をしたい場合、徳を積んで点数を稼がなければ権利が得られない。 リョウの証明書には蘇生以外のすべての項目があった。やり方次第で、どうとでもなるのに彼は生きている恋人に再会するのを諦め転生不要を選択した。その理由が藍花には分からなかった。前世での親交が深ければ深いほど、黄泉市に来てから再会できる確率は低くなるからだ。 訪れる客はリョウのように何かしらの事情を抱えているのだけれど、明日までに必ず郵送しなければならないのに残業があって郵便局が閉まってしまったなどの理由で、まだ身分証明書が有効な者が黄泉支店への道を知らないまま偶然やって来ることもあるから、どんな来客があっても不思議ではない。その者にとっては沢山ある郵便局のうちの一つに過ぎない。 勿論分かってはいたけれど、藍花はその姿を初めて見た時、椅子から転げ落ちそうになった。
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