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寒川くんは、中二の春に現れた。
寒川くんが転校生だと紹介されて黒板の前に立った時、女子たちは二度見して、目をこすり、眼鏡がある者は眼鏡をかけ直した。
なぜなら寒川くんは、めちゃくちゃイケメンであったからである。
それも学級いち、学年いち、程度のレベルではなかった。日本人にこんなDNAが残っていたのかというくらい、寒川くんの顔や頭のかたち、目や鼻といった各パーツの比率など、全てが完璧であった。
しかも、寒川くんはとてもできる子だった。予習ノートはぎっしりと書き込まれていたし(噂)、ラジオ体操も様になっていた(噂)。さらに驚くべきは歌である。声変わりを終えたばかりの寒川くんの声は、少し雑音の混ざった奥行きのあるバリトンボイスで、はっきりいってその他の男子との格差は歴然であった。
寒川くんの歌声を隣で聴ける女子は、天国に行けたことだろうと思う。少なくとも私はその声を聴いただけで、パステルカラーのドレスを着たプリンセスにでもなれたような気がした。
そう、私たちの町に、王子さまが現れたのだ。こんな、レンコンしかないじめじめした田舎町に。私たちは完全に浮き足立ってしまった。
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