たらこの王子さま

1/19
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 寒川くんは、中二の春に現れた。  寒川くんが転校生だと紹介されて黒板の前に立った時、女子たちは二度見して、目をこすり、眼鏡がある者は眼鏡をかけ直した。  なぜなら寒川くんは、めちゃくちゃイケメンであったからである。  それも学級いち、学年いち、程度のレベルではなかった。日本人にこんなDNAが残っていたのかというくらい、寒川くんの顔や頭のかたち、目や鼻といった各パーツの比率など、全てが完璧であった。  しかも、寒川くんはとてもできる子だった。予習ノートはぎっしりと書き込まれていたし(噂)、ラジオ体操も様になっていた(噂)。さらに驚くべきは歌である。声変わりを終えたばかりの寒川くんの声は、少し雑音の混ざった奥行きのあるバリトンボイスで、はっきりいってその他の男子との格差は歴然であった。  寒川くんの歌声を隣で聴ける女子は、天国に行けたことだろうと思う。少なくとも私はその声を聴いただけで、パステルカラーのドレスを着たプリンセスにでもなれたような気がした。  そう、私たちの町に、王子さまが現れたのだ。こんな、レンコンしかないじめじめした田舎町に。私たちは完全に浮き足立ってしまった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!