たらこの王子さま

2/19
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「ねえねえ、寒川くん。何これ。かわいー」  弁当も終盤にさしかかった頃、私たち地味グループは、はっと顔を上げて、すぐにそらした。早速キラキラグループの長である飯島さんが、寒川くんに話しかけていたのである。飯島さんは男子にも物おじしないきっぱりした態度で、女子はもちろん男子からも人気があった。 「……え、知ってる? このアニメ」 「えー、知らなーい。でもかわいいね」 「でしょ? 今深夜でやってるよ」 「そーなんだー。ふふふ」  私たち地味グループは、ほぞを噛んだ。私たちなら、あの話題、もっと盛れた。なぜなら私たちはアニメオタクで、あのアニメも勿論毎週録画予約済み、更にリアタイで視聴するほどの名作であると知っていたからである。しかし私たちがしゃしゃり出たとて、飯島さんにモザイクをかけられてしまうことは容易に想像できた。なので黙っていた。  黙っていたら、そのうちクラスの女子、学年の女子、先輩、後輩の女子が次々と寒川くんに集まり始めた。まるでミツに群がるカブトムシのように。厳密には1日にひと組見かける程度ではあったけれど、とにかく寒川くんが女子に呼び止められない日はなかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!