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3つの星⑰
「もしかしたら今日の写真でお母さん達がどう思ってるかわかるかもしれないよ」
晴喜はそう言った。柊はその意味を理解してはいるのだが、自信のない様子で晴喜の目を見ていた。
スマホから短い通知音が鳴り、晴喜は端末を手に取った。
「あと15分くらいで戻るってさ」
柊は頷いた。
「お昼ご飯何かな」
「…あ!!」
突然拓人が声を上げた。
「どうした?」
「昼ごはん、買ってあったのに家に忘れてきました」
「そんなことか。今から買いに行くか?」
「いいですか」
「ああ。確か噴水の方の入り口にあったはず」
「ありがとうございます、行ってきます」
「後ろに傘置いてあるから持っていけ」
「ありがとうございます」
拓人は荷物を積んであるシートの端に傘を見つけて手に取り車を降りた。
小雨のなか静かな道を歩いた。人は多くはいなかったが皆雨宿りのためどこかに行ったようだ。
歩いていくと途中東屋があり人影が見えた。俯いてベンチに座っているのが何となく気になりながら横目に歩いているとそれはあの彼女だとわかった。彼女は本を読んでいるらしくこちらに気が付かない。
晴喜が言ったとおり、噴水近くの入り口を出た道路の向かい側にコンビニがあった。チルドコーナーに立ちサンドイッチを見ていたが、なかなか手に取らないのは考え事をしているからだ。少ししてから適当にサンドイッチとおにぎりを選びレジに並んだ。
ふと視界に入ったのは栄養ドリンクが置いてある棚だった。拓人はその棚から小瓶をひとつ取り出した。
来た道を戻り東屋が見えてくるとコンビニの袋を持つ手が緊張し始めた。
しかし東屋に人はいなかった。拓人は周りを確認してから晴喜の車の方へ向かってまた歩き出した。
「あっ」
声がして振り向くと彼女が立っていた。
「…」
「今、もしかして探してました?」
拓人は恥ずかしく思ったが、躊躇わずに袋から栄養ドリンクの小瓶を取って彼女に差し出した。
「これ、よかったら」
彼女は少々驚いた顔で小瓶を受け取った。
「私にですか?」
「風邪引いてたって聞いたんで」
「…ありがとうございます」
彼女が嬉しそうに笑うため、拓人は視線を逸らして会釈した。
「それじゃ」
再び歩きだした拓人だったが、彼女に間もなく後ろから呼び止められた。
「あの!」
拓人は振り向いた。
「何ですか」
「名前、教えてください」
彼女の顔からはさっきの笑みが消え、真剣な表情をしている。
「原です」
拓人は立ち尽くしたままの彼女を見ながら次の言葉を待った。彼女は特に反応もせず黙っていたが、やがて口を開いた。
「私、早川です。早川 咲です」
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