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3つの星⑲
用意された物を見て親子は目を見張った。
「今からこれで遊んでもらいます」
拓人はテニスラケットの3倍はあるサイズのフレームを父親に手渡した。柊は何をするのかまだわかっていないよ
「パパ、これ何?」
「シャボン玉じゃないかな」
「え!こんな大きいの!?」
拓人は柊に伝えた。
「シャボン玉だよ」
それを聞いて柊は思わず向こう側にいる母親を見た。一瞬、大声で知らせたいというような顔をしていたが、まだ心が澄まないのか口をつむった。そんな柊に代わって父親は向こう側に大きく手を振った。
柊と一緒に父親がフレームの持ち手を握りシャボン玉液を付け、どれくらいの早さで動かせば成功するのかを試している。
晴喜はカメラを手にしっかりと構え、尚且つ2人が自然体でいられるように立ち回る。拓人は晴喜の動きをよく観察した。
周りが広く木もほとんどないため風が強く吹いているが、親子は風が止むタイミングを見計らってチャレンジするなどして苦戦する状況をも楽しんでいる。
柊は今やシャボン玉作りに集中していて、あのもどかしそうな表情はいつしかすっかり消えてしまった。
ようやく1つ成功し、暫くして2つめが成功しそうなとき、晴喜は突然カメラを脇に抱え母親の方へと走りだした。そして母親より少し後ろに立ち再びカメラを構えた。その頃にはすでに成功したシャボン玉は潰れて消えてしまっていたのだが、そこにはハイタッチをして喜んでいる父子の姿があった。
拓人は晴喜が撮っている写真の構図を想像した。母親が小さな娘を抱きながら見守る視線の先に父子の楽しそうな姿、きっと他人から見ても微笑ましい写真なのだろう、と。
シャボン玉作りもコツを掴みはじめた頃、妹の紡が目を覚ました。伸びをして足をばたつかせたため母親は紡を地面に下した。
紡はよろめきながら歩くと一度立ち止まった。それから大きなシャボン玉が膨らんでいるのが見えた途端、高い声をあげながら走りだした。晴喜はそんな瞬間も逃がすまいと追いかけながらカメラをしっかりと構えて走る。それを見て拓人は、シャッターを切る時いつでもカメラが安定している訳ではないのだと気が付いた。
大きなシャボン玉がふわふわと上がっていくのを紡が両手で捕まえようとすると父子は互いに目を合わせて満足げに笑った。
「すごいじゃない」
ゆっくりと追いついた母親は柊に言った。
柊は返事をしない。それでも朝のようなつっけんどんさは抜けており、少しして口角を上げた。
シャボン玉が弾けて消えてしまうと紡ぎは振り返った。眉を下げてせがむのを見て父子は再びチャレンジした。
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