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出会い⑫
青谷 蓮との再会は思ったより早くに叶った。
柳瀬さんの家に行った3日後、夕方にあった営業のアポがキャンセルになったから今からどうかと突然言われた。土日だと休みをわざわざ使わせるのは悪いからと柳瀬さんは気を使ってくれた。
「先輩、何か隠してません?」
給湯室から私達が出てきたのを見て宮園さんが眉を潜めた。
「別に」
「あー、なんか怪しい。まさか不倫ですか?」
「もう、誰もいないからって冗談やめてよ」
宮園さんは笑った。
「この前も小さい声で話してたし、気になるなー」
柳瀬さんがトイレから戻ってきた。
「車で待ってるからゆっくり着替えてきて」
「はい」
ドアが閉まると宮園さんは疑う目つきで私を見た。
「違うって。ちょっと人に会いに行くの」
「え、どこにですか?」
「病院」
「そういえば前にお見舞い行ってましたよね。でもなんで柳瀬さんと?」
「今日は別の人のお見舞いなの。共通の知り合い」
宮園さんは気の毒になったのか、ぴたりと口を閉じた。
「そんな深刻なことじゃないから安心して。ちなみに安西さんには許可もらってるからね」
「なんだ、それなら納得です」
「じゃ、先に帰るね」
「はい、お疲れ様です!」
ロッカーで着替えながら自分が落ち着きをなくしていることに気がついた。青谷蓮に会える、そう思うと変な嬉しさがこみ上げてくる。同じ顔だけど別人で、タケルとは関係のない人かもしれない。でも、何かが引っ掛かっている。あの日タケルは神社の境内で倒れていた、でも柳瀬さんは神社の下の道だと言っていた。結び桜の神社にいたという共通点が何を意味しているのか。
私は… もう一度タケルに会いたい。
「お待たせしました」
助手席に座ると柳瀬さんは早速エンジンをかけた。
「ごめんね、急に誘って」
「いえ、予定もなかったので。よろしくお願いします」
「ありがとう」
国道まで出ると柳瀬さんは話し始めた。
「蓮に今日行くってメールしておいたから」
「携帯持ってるんですか?」
「うん、最近あいつの兄貴が契約してきたみたい。これから必要だろうからってね。前の番号は解約したから消えちゃったけど」
「そうなんですね」
「これから橋詰さんを紹介するし、携帯があって良かった」
少し前に柳瀬さんから送られてきたメールの事が気になった。
「あの、声が出せないっていうのはどこか悪いんですか?」
「医者が言うには病気じゃないけど長い間使っていなかった喉が機能を一時的に忘れてるんじゃないかって診断らしいんだ。眠り続けた原因は意識が戻ってからも分からないままだってさ」
「体って不思議ですね」
「そうだね。ところで気になってたんだけど、前に言ってたクラマエって名前、あれって何の事だったの?」
「あれは…」
どこから説明していいか迷う。
「ちょっと知り合いに似てる人がいて」
「ん?蓮に会ったことあるの?」
「実は知り合いのお見舞いに行った時に顔を見て」
「そうだったんだ」
柳瀬さんは考え込むように黙っている。私の話に辻褄が合わないことを変に思っているのかもしれない。
「お腹空いてるよね?ドライブスルーで何か買おうか」
「あ、はい」
信号を2つ通り越した先にある看板を曲がり、ドライブスルーに入ってハンバーガーのセットを注文した。無理に付き合わせたお詫びと言って柳瀬さんは会計を済ませてくれた。
「先に食べてて、俺は後でいいから」
面会時間は夜8時までだと聞いた。あと1時間ちょっとしかない。
「すみません、運転してる横で。いただきます」
「はーい」
ハンバーガーの包みを開けようとした、はっとして袋に戻し代わりにポテトを摘んだ。私が食べることに集中できるようにと思ってなのか、柳瀬さんはメールにあった内容と青谷蓮について詳しく話してくれた。
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